ドロップヘッドクーペってどんなクルマ? さすが「ロールス・ロイス」独特の言い回しだらけだった (1/2ページ)

この記事をまとめると

■ロールス・ロイスはオープンモデルをドロップヘッドクーペと呼んでいる

■ドロップヘッドクーペという名称はコーチビルダーによるボディ架装まで遡れる

■そのほか、フィクスドヘッドクーペ、ブロアム、セダンカ、ボートテールなどの独特な呼称も使用する

起源は幌馬車の時代まで遡るドロップヘッドクーペ

 ドロップヘッドクーペといえば、近年ではロールス・ロイス・ファントムをベースとしたオープンカーを思い起こすはず。「Drop Head Coupe」、すなわち屋根を下せるクーペということになりますが、なんだか大げさな言いまわしに聞こえるのは筆者だけでしょうか。

 だいたいソフトトップを用いたオープンモデルはコンバーチブルやカブリオレといったネーミングが一般的でしょう。ロールス・ロイスがドロップヘッドクーペという名前を使うのは、同社の歴史と深く関りがあり、じつは設立以来の馴染みある呼称でもあるのです。

 ざっくり説明すると、ロールス・ロイスは設立当初はシャシーだけを製造し、ボディはコーチビルダーという他社に任せていました。このコーチビルダーというのは、クルマの前は馬車のボディを作っていたファクトリーで、オーナーから「馬二頭立てふたり乗り」とか「4頭引き4人乗り」といった注文を受けていたわけです。有名どころではヘンリー・ジャーヴィス・マリナー(H.J.マリナー)、パークウォード、バーカー、スラップ&メイバリーなどなど。

 こうしたコーチビルダーにロールス・ロイスなり、ベントレーなりのシャシーに架装するボディを注文すると、「ところで、屋根はいかがいたしましょうか、伯爵様」などと聞かれ、その際は「ドロップヘッドでプリーズ」みたいに注文していたのかと。で、コンバーチブルやカブリオレと違うのは、リッチ&ゴージャスな内張や骨組みがしっかり作られているところ。ペラペラなビニールや、簡素な雨除け幌というのは、少なくともコーチビルダーの作品には見当たりません。

 ところで、ドロップヘッドクーペ本来の姿は屋根を畳んでいないのがデフォルトです。コーチ(客車)ビルドというくらいですから、馬車に架装する客車はそもそもがクローズドボディ。庶民は西部劇でおなじみのオープンボディか、屋根があっても粗末な幌がいいところ。そんな頃にしっかりした客車(コーチ)を架装できるのはまさに「上流階級の証し」で、しかも屋根が下せるドロップヘッドはこの上もない贅沢だったに違いありません。とはいえ、人品骨柄卑しからざる金持ちは「見せびらかし」を嫌うもの。それゆえ、普段は慎ましく屋根を閉じていたのではないでしょうか。

 また、ドロップヘッドクーペはロールス・ロイスと馴染み深いと述べましたが、当然ベントレーやロータス(初代エラン)、ジャガー(XK150)、あるいはMGといった英国メーカーはことごとく採用しています。コーチビルダーに依頼したものばかりではありませんが、その流れを汲んでいることは明らかでしょう。

 現在、ロールス・ロイスは「コーチビルド部門を復活させた」としていますが、これは1936年にパークウォードを買収するなど、自社でスペシャルなボディを架装できるようにしていたことを受けての表現でしょう。加えてベントレーのスペシャルオーダー部門が「マリナー」とされているのも、H.J.マリナーの商標、ブランドを用いたものであること言うまでもありませんね。


石橋 寛 ISHIBASHI HIROSHI

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