なんとアルミじゃない! ロールスロイス・ファントムIIがアルミの3倍重い「ステンレス」のホイールを履くワケ (2/2ページ)

職人の技術がステンレススチールのホイールを芸術品に変える

 ちなみにステンレス合金の最大の特徴は、そもそもの「ステン」「レス」という名前からも分かるように「錆び」「ない」(実際には絶対に錆びないわけではない、「錆びにくい」)こと。ただし、本当に腐食しないのかといえばそうではなく、加工時につけてしまった小さな傷から腐食が始まることがあるので、その取り扱いには細心の注意が必要なのです。

 ロールスロイスは新型ファントムで、切子面を採用した奥行き感を持つホイールや、あるいは伝統的なディシュタイプのホイールなどを採用していますが、これらはやはり熟練した職人の技があってこそなせるものといっても間違いではないのです。

 それではこの耐腐食性の問題以外に、ロールスロイスがステンレス合金をホイールに採用した理由には何が考えられるでしょうか。

 ちなみにスチール合金製、アルミニウム合金製のホイールとの比較では、ステンレス合金はスチール合金とは同程度の体積でほぼ同重量、そしてアルミニウム合金の3倍程度の重さとなります。これはいわゆるクルマのバネ下重量を考えれば、アルミニウム合金にとって何より有利なことですし、デザインの自由度もアルミニウム合金は鋳造、鍛造含め非常に幅広くなっています。

 ならばステンレス合金をホイールに使うメリットは何なのか。これは前に触れた対腐食性のほかに、彫刻的なデザインさえデザイナーと職人の技によって生み出すことが可能であること。一般にステンレス合金は、熱伝導率も低く(つまり熱を通しにくい)、強度も高いとされているので、耐久性を重視するロールスロイスのようなクルマには、それはベストな選択といえるのです。

 また、ステンレス鋼の熱伝導率は、アルミニウム合金と比較して20~10%の低さ。耐熱性に優れ、高温環境下での使用に適していることも採用の一因と考えることができそうです。

 ステンレス合金は、その種類にもよるものの、じつは加工性という点では非常に切削加工の難易度が高い難削材。しかし、仕上がった商品は外観に美しい光沢を持ち、その美しさもまたステンレス合金の魅力となっています。世界で最高のものだけをカスタマーのもとへと届けるロールスロイス。ホイールひとつをとっても、その伝統の哲学は確かに受け継がれているのです。


山崎元裕 YAMAZAKI MOTOHIRO

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 /WCOTY(世界カーオブザイヤー)選考委員/ボッシュ・CDR(クラッシュ・データー・リトリーバル)

愛車
フォルクスワーゲン・ポロ
趣味
突然思いついて出かける「乗り鉄」
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