かつてのフランス車のライトが黄色い理由は諸説アリ
さて、経済的にも社会的にも成功した人が乗るクルマ、ロールス・ロイスにも、思わず庶民が「どうしてそうなった?」と感じてしまうデザインがあります。それはロールス・ロイスの伝統ともいえる「スーサイドドア」です。4ドアの場合、前のドアは普通に前方に開くのですが、後ろのドアは並のセダンとは逆=後方に開くのです。いわゆる“観音開き”という開き方は4ドアのショーファードリブン(運転手付き高級車)ならば納得できなくはありませんが、2ドアモデルのロールス・ロイス レイスでさえも左右のドアが大きく後方に開くのです。それというのも、「降りようとした時にドアが邪魔にならないように」と、ロールス・ロイスがお客様に配慮したから! とくに長いスカートをお召しになったご婦人の方々が優雅に降車できるように、このスーサイドドアを全モデルに採用しているのです。ちなみに、4ドアも2ドアも大きく後方に開くリヤドアについて「手が届かないから開閉が大変」と思った人は、正真正銘の庶民。ロールス・ロイスの後席に乗る人は、決して自分でドアを開閉しませんから(ちゃんとオート機構もありますし)。
最後にフランス車のライトについて、解説しましょう。夜間を走行中の古いフランス車を見て「どうしてヘッドライトが黄色なの?」と疑問に思った人は少なくないでしょう。フランス人が黄色にこだわった理由には諸説あって、ひとつは第二次大戦中にまで遡ります。ドイツ軍がパリに侵攻した際、彼らのクルマが皆ハロゲンの白色だったために、それ以降「白色=ドイツ軍」という悪いイメージが刷り込まれたせいで黄色にしたとか。また、霧や雨が多いフランスの田舎では、550-590nmという波長の黄色がいちばん目立つから……という科学的かつ合理的な理由もあります。もうひとつは、瞳が青いフランス人には白いライトの光が眩しかったから、「目に優しい黄色」を採用したという説。このようにフランス車の黄色いライトにはいくつかの理由がありますが、いずれにしても平成18年度から新規登録のクルマのヘッドライトは白色に限定されてしまったので、その理由が囁かれる機会もいずれなくなるでしょう。
ともすると奇妙に思えるクルマの機能やデザインですが、じつはそれなりの理由があることを紹介しました。これをきっかけに街に溢れるクルマを漠然と眺めるのではなく、その形や色について興味を持ってみてはいかがでしょうか。