現在は「レブマッチシステム」が実用化されている
ヒール&トゥは、ブレーキングとシフトダウン、ふたつの操作を同時に、かつ最大効率で行えるよう考え出されたテクニックで、最優先、最重視される操作がブレーキングだ。ブレーキの最大制動力で減速を行いながら、なおかつエンジンブレーキをうまく併用させることで制動性能を高めようとしたテクニックである。
では、ブレーキ操作を抜きにして、単純にシフトダウンの操作だけを考えてみよう。シフトダウンは、ギヤ比の高い走行ギヤからギヤ比の低い走行ギヤへと切り替える作業である。これをエンジン側から見ると、同じ速度での走行の場合、シフトダウンするとエンジン回転数は高くなることになる。MT車の走行で、シフトダウンの操作はクルマがギクシャクして苦手だという人もいるが、クラッチを踏んでいる間にアクセルを空ぶかしすると、クラッチをつないだ際にスムースにつながるから試してみるといい。
ヒール&トゥは、このシフトダウン時のアクセルの空ぶかしを行うテクニックで、ブレーキペタルの踏力コントロールほど、シビアな操作は要求されない。大ざっぱな言い方だが、ギヤ比の低いギヤに切り替える場合、エンジン回転数は適当に高めるだけでよく、一瞬の空ぶかしだからエンジン回転数もすぐに落ちてくる。逆に、一瞬「ブワン」とエンジン回転数が高くなった状態でクラッチペタルを戻すと、ちょうどよい感じでギヤはつながってくれる。
ブレーキペダルを最大減速Gが得られる踏力でコントロールしながら、同時にスムースなシフトダウン操作は、人によって難易度は異なるが、最近は、ドライバーはブレーキング操作に専念し、シフトダウン時の回転合わせは機械に任せるMT車のシフトダウン補助システム「レブマッチシステム」が実用化されている。シフトダウン時、クラッチペダルを踏んでいる間にシステムがエンジン回転数(ブリッピング、瞬間の空ぶかし)を調整し、ドライバーはクラッチペダルを離すだけでスムースなシフトダウンができるハイテクメカニズムだ。
さて、このヒール&トゥだが、これまで説明してきたことからも明らかなように、ブレーキを全制動で使う環境で初めて有効になるテクニックで、シフトダウンの必要がない速度変化幅や、緩制動時には不要な(というより使いにくい)テクニックとなってしまう。また、レブマッチシステムだが、誰にでもMT車を容易に操れるようにしたシステムとして高く評価できるが、そもそも現状のMTが、もはや運転を楽しむ方式としてその立ち位置を変えている以上、ヒール&トゥもMT派のユーザーに委ねるべきテクニックとして、果たして機械の介入が正解なのかどうか、大いに疑問でもある。