SUVって「積載性」がウリのひとつじゃないの? それでもスタイリッシュな「クーペSUV」がバカ売れするワケ (2/2ページ)

SUVクーペはカムバックが磨き上げられた姿かもしれない

 つまり、SUVクーペはいま、ますます1970年代に流行った「リフトバック」もしくは「ファストバック」化しつつある、そういえる。

 リフトバックはテールゲートが持ち上がって荷室へのアクセスが容易だが、ファストバックは固定リヤウインドウの車型にも用いられるタームだ。ただし、今日のクルマのほうがタイヤ外径も大きくて回生エネルギーを拾う関係上、より大きなブレーキ径を収めたくてホイールも大径化し、結果としてロードクリアランスもアゲアゲ方向、という特徴というか事情はあるだろう。

 だがいずれにせよ、ルーフからリヤエンドにかけてテーパーがかった線で繋げるデザインは、もともとはタービュランスを抑えるための空力改善ディティールとして、1930年代にドイツ、シュツットガルト大学のヴニバルト・カム博士が先駆けたものだ。戦後に「カムバック」と呼ばれ、日本ではしばしば「カムテール」と呼びならわされた。1930年代から50年代にかけて、タトラや多くのアメ車はルーフからスラントしたエアストリームラインを数々作り出し、イタリアではザガートが「コーダトロンカ」を考案した。

 じつはカム教授は元々ダイムラーのエンジニアだったが、その研究成果としてのカムバックを、アルミボディで最初に具現化したのはBMW 328「カムクーペ」。だからBMWが2008年にE71の「X6」を世に送り出したのは、歴史的な必然だったかもしれない。モダンだけど歴史をちゃんと見ている、そういうデザインでもあるのだ。

 そのX6が3世代目に突入しているいま、市場を見渡せばメルセデスはGLSからGLCまでクーペを揃え、GLAクーペすらマジメに取沙汰されている。路上にはレンジローバー・イヴォークや、トヨタC-HRに三菱エクリプスクロス、マツダCX-30にMX-30、ルノー・アルカナにシトロエンC4といったSUVクーペがあふれている。スーパーカーの世界でもランボルギーニ・ウルスの牙城にフェラーリ・プロサングエが放たれ、あのポルシェだってカイエンクーペを登場させている。EVに限ってもテスラ・モデルYからVWのID.4まで、「SUVクーペ」であることがほとんど必須条件ですらある。

 なぜならSUVクーペとは、居住性と空力という相反しそうな要素を両立させる車型であり、それを可能にするのは新しいテクノロジーや流行りのシルエットというより、昔ながらの「カムバック」が磨き上げ続けられた結果として、存在しているのだから。


南陽一浩 NANYO KAZUHIRO

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