雪が降らなくても交換! 梅雨前までは履き続ける! バスやタクシーのスタッドレスタイヤ事情 (2/2ページ)

タクシーは全車全輪履き替えるとは限らない

 都内のタクシーでは、シーズンになるとスタッドレスタイヤに全車全輪履き替えるところもあれば、天気予報などで大雪になると予報が出たら履き替えるなど、事業者によって対応は異なっている。また全輪スタッドレスタイヤに履き替える事業者と、駆動輪のみをスタッドレスタイヤに履き替える事業者もある。駆動輪のみとする事業者はタイヤチェーンの装着例をそのまま、スタッドレスタイヤに置き換えているようである。

 ある冬の時期乗り合わせたタクシーの会社では、駆動輪にしかスタッドレスタイヤを履かせないとのこと。「雪国の人には笑われるぐらいの少ない降雪でも、東京辺りでは大パニックなることがありますよね。ただそんな時でも駆動輪だけではまともに動きませんよ。怖いだけですから、雪が降ったら早々に車庫に帰ります」とドライバーが話してくれた。駆動輪だけではほとんど意味をなさないのは確かなようだ。

 筆者は大雪になるとわかっていて都内でお酒を飲み続け、案の定大雪になって鉄道が運行休止になってしまったので、都心から東京隣接県の自宅までタクシーで帰ったことがある。「川(都県境の大きな川)越えられるかわからないけど、とりあえず行きますよ」という約束でスタート。すると、そのタクシー会社から無線が入り都県境を越えての営業をしないようにとの指示が出たので、県境のターミナル駅で降ろしてもらい、そこのタクシー乗り場で数時間待って、タクシーに乗り直して自宅に帰ったことがある。

 タクシードライバーは二種免許を持ち、危険予測がしっかりできるなか車両を運転していても、たとえば都内で降雪があって結構な量が積もったとしても、タクシーが全輪スタッドレスタイヤで防備していれば大丈夫というわけではない。まわりのクルマが夏用タイヤのまま走っていれば、大渋滞や道路閉鎖、そして事故などのトラブルに見舞われるリスクがかなり高まってくる。それでは、お客を乗せていてもいつ目的地に着くかわからないことにもなりかねない。さらに、車庫にいつまでも帰ってこられないということにもなりかねない。

 そこでタクシーの場合には、台風や大雪などの荒天や、地震などの自然災害の程度によっては営業運行を切り上げて車庫に戻ってもよいことになっている。事業者が無線などで一斉に帰庫を促すこともあるが、ちょっとひどい台風や降雪では、ドライバー個々の自己判断で帰庫することもあるようだ。

 前出の筆者の体験でも、隣接県まで行ってしまうと戻れなくなるリスクが高いので、都県境を越えないようにと事業者がドライバーへ指示を出したようである。

 ちなみに筆者は2011年3月の東日本大震災発生当日は、東京都内で取材活動を行っていた。ただ、どうしてもその日のうちには東京隣接県の自宅まで帰らなければならなかったので、レンタカーを借りて帰宅した。その時に「帰宅途中に地震で大きな陥没ができ、そこに落ちた場合はどうなるのか」と聞いたら、「NOC(ノンオペレーションチャージ)を払っていただければ、それで対応します」とその時は教えてもらった。何もなければ2時間もあれば帰れたところを、7時間以上かけて帰ったのをいまも覚えている。

 タクシーにスタッドレスが本格普及をはじめた当時はまだ東京都内や隣接県では「タイヤチェーンがあれば大丈夫」という認識が業界では多かったのだが、だんだん駆動輪だけ装着する事業者が目立ってきた。そして、そんな時期に、全輪装着しているハイヤーで降雪時に事故を起こしたのだが、全輪スタッドレスタイヤを履いていたので大きな事故にならずに済んだケースがあったそうだ。すると、その後大口得意先を中心に全輪スタッドレスタイヤを履く事業者を契約先に選ぶことが多くなってきて、大手や準大手のタクシー事業者では全輪装着するケースが目立ってきたと聞いている。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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