この記事をまとめると
■今年の漢字は2度目となる「戦」となった
■日本の自動車メーカーは「戦」とも呼べる争いを各地で繰り広げている
■「戦」の相手は「社長」「市場」「サーキット」とさまざまだ
「戦」を繰り広げるクルマたちを紹介
例年通り、清水寺で今年の漢字が発表となりました。「戦」という字、じつは2001年(アメリカ同時多発テロが発生)に続いて2度目となりました。世相を表す漢字とはいえ、クルマ好きとしては微妙な気分かと。一方、クルマの世界でも「戦」の文字が当てはまるトピックスがいくつかあります。世間の「戦」と違って、わりと楽しげな「戦」をいくつかご紹介しましょう。
豊田章男社長と戦うプリウス
フルモデルチェンジのニュースもフレッシュな5代目プリウス。とてもスタイリッシュになり、また走りと環境性能も飛躍的な向上をしたと、さまざまなメディアを席巻したかと。
ですが、開発のスタート時には社内から「いつまでハイブリッド車をつくるんだ」といった逆風もあったそうです。つまり、カーボンニュートラルを目指すべきトヨタにとってはハイブリッドでなく、EVのほうが優先されるべきといったニュアンスでしょうか。
ここに抗ったというか、反対表明をして戦ったのが豊田章男社長その人でした。ハイブリッド車のプリウスを「どうしても残さないとならないクルマだ。なぜなら、誰でも手が届くエコカーだから!」なるほど、カーボンニュートラルの実現にはあらゆる人々の協力が欠かせません。誰もが手に入れられるエコカーは絶対に必要な存在に違いありません。
また、豊田社長はプリウスの開発に当たって「タクシー専用車にしたらどうか」と提案。これは、コモディティ化することで走行台数が増え、タクシーなど長距離を走ることで、よりエコカーとしての機能、価値を高めようという狙い。たくさんのエコカーがじゃんじゃん走れば、それだけ環境に優しくなるということ。
ここで、開発チームは豊田社長と戦いました。彼らはコモディティ化、つまり「プリウスを白物家電のようなクルマにしたくない!」、クルマ好きとして愛情を注げる「愛車」にしたいと。このくだりはプリウスの発表会でも紹介され、豊田社長も「このケンカはおもしろいね」とコメントしたとのこと。
さて、豊田社長が戦ったプリウス、その出来ばえはぜひご自身でお確かめください。プリウスをめぐる戦いは、すなわちクルマ好きとエコのせめぎ合いにも等しいのですから。
インフレと戦うスズキ・アルト
増税とか値上げだとか、ほんとイヤなニュースには事欠きませんが、昔から庶民の味方になっているアルトの存在には大いに勇気づけられる、というか励まされているクルマ好きも少なくないことでしょう。
思い起こせば、初代アルトは当時の事情としては画期的な全国統一価格47万円という破格を打ち出し、しかも商用車登録とすることで税金もゼロ! 軽自動車が軒並み60万円という時代ですから、売れに売れまくったことも当然です。
そうした初代の意気込みやコンセプトは、7代目にも継承されていることは確かでしょう。トールボーイ真っ盛りな市場に、あえて商用車スタイルを堅持(商用車登録だから当たり前といえばそれまでですが)必要最低限の「下駄グルマ」としては必要十分、いやそれ以上の仕上がりといっても過言ではありません。
登録台数を見ると、さほど数字が伸びている気配がないのは、例の「半導体不足」でもって生産台数に制限がされているから。また、商用ニーズだけでなく、50代以上の男女比がほぼ同等というのも「普段使い」に供しているユーザーが多い傾向を表しているのかと。
ハードの良し悪しは別としても、表面上はどうにかなっているのを装いながら、じつは破綻しているかのような日本にとって、アルトは「地に足の着いた」あるいは「きちんと現実を見据えた」存在といえるのではないでしょうか。もしかしたら、アルトは古き良き日本人の本質や魂に代わって戦ってくれているのかもしれません。ちょい、大げさだけど(笑)。