誰もが唸るまるで欧州車のような佇まい
巨匠が絶賛したクーペフィールのセダン
3台目は、「ユーノス500」です。バブル期の5チャンネル体制では初代の「ロードスター」が圧倒的な存在感を示していましたが、5ナンバーサイズのセダンとして1992年に発表されたのがユーノス500です。
当時推進していた「ときめきのデザイン」によるスタイリングは、コンパクトながら縦桟がエレガントなグリル、フォグランプと相似形とした上品なフロントランプ、抑揚豊かなボンネットや流麗なサイド面、そして緩やかに下がりつつ大型のランプで引き締めたリヤビューなど、どこから見ても完璧な美しさを発揮。
この優雅なボディは、あのジウジアーロをして「コンパクトクラスでもっとも美しいセダン」と言わしめたといいます。チーフデザイナーの荒川健以下、当時のマツダの若手トップが手掛けたユーノス500ですが、セダンユーザーにはあまりに流麗過ぎたスタイルだったのかもしれません。
背の高いスペシャルティは成立しない?
次は、スズキの5代目「セルボ」です。もともとが「フロンテクーペ」に端を発する軽のスペシャリティですが、一時期途絶えていたところ、2006年、8年ぶりに復活したのがこの5代目です。
円弧をモチーフとしたワンモーションフォルムのフロントは、切れ長のランプが低く構え、そこからリヤに向けてウエッジしたベルトラインとキャラクターラインが、強く前傾した姿勢を作り出します。また、曲面のリヤパネルを含め、まるで一筆描きのようなカタマリ感も特徴です。
いわゆるハイトワゴン的なパッケージとして1535~1545mmの全高を持ちながら、しかし一方でスペシャリティらしいスタイリッシュさを込める。恐らくは、この特殊な融合が多くの軽ユーザーに理解されなかったのかもしれません。
欧州車に負けない個性をコンパクトボディに
最後は、ダイハツの「ストーリア」です。「We do COMPACT」を掲げ、まったく新しい商品を送り出そうと意気高揚としていたダイハツが、1998年に送り込んだ超個性的コンパクトです。
ショートノーズにロングキャビン、ロングホイールベースという居住性を意識したプロポーションに、短いノッチを付けたセダンスタイルが独自の存在感を発揮。楕円のランプやグリル、抑揚のあるベルトラインにより、およそコンパクトカーとは思えない優雅さが特徴です。
欧州車に負けない個性を目指したデザイナー陣は、たとえばよき時代のジャガーやアバルトなどを思い描きながら、ほかにはないオリジナリティを目指しました。ただ、その高い志は、気楽さを重視したコンパンクトカーユーザーには少々重荷だったのかもしれません。
さて、今回選んだ5台はどれも日本車離れしたグッドデザインばかりですが、冒頭のとおり、「だから売れるとは限らない」のがクルマという商品の難しさです。しかし、メーカーには今後も攻めの姿勢、プロダクトアウト的な発想を続けて欲しいと筆者は考えます。