この記事をまとめると
■燃やしても有害物質の排出が少ない燃料である天然ガスだが乗用車ではほとんど利用されていない
■天然ガス燃料車は出力が出にくく、瞬発力に欠けたクルマとなる
■インフラの整備もされていないため乗用車には向いていない
有害物質やCO2排出の少ない燃料のはずなのに……
天然ガスは、都市ガスとして利用されており、燃やしても有害物質や二酸化炭素の排出がほかの石油由来の燃料に比べ少ない優良な地下資源だ。ただし、実態はメタンガスであり、そのまま大気に放出されてしまうと、二酸化炭素(CO2)以上に高い温室効果がある。燃やしても有害物質の排出が少ない燃料として、天然ガスはトラック輸送やバスなどで利用されている。一方、乗用車ではほとんど利用されていない。
理由のひとつは、ガソリンや軽油に比べ出力が出にくいからだ。理由は、天然ガスが気体の燃料であることによる。気体の燃料では、石油液化ガス(LPG=プロパンガス)を使うタクシーも同様であり、また水素ガスをエンジンで利用するときも同様だ。
かつて、スウェーデンのボルボが、バイ・フューエルと名付け、ガソリンと天然ガスを切り替えて乗れるクルマを出したことがある。同じエンジンで、ガソリンと天然ガスを使い分けられるのだ。試乗すると、ガソリンを使う場合はいつもどおりの加速ができるが、天然ガスに切り替えると、ことに出足の加速が鈍くなった。瞬発力に欠けるのだ。結局、バイ・フューエルの取り組みは広がらなかった。
同じく気体燃料であるLPGを使ったエンジンを搭載するタクシーは、加速が悪いと運転者はいう。運転する様子を見ると、発進の際に強くアクセルペダルを踏み込み、エンジン音を唸らせることが多い。しかし、トヨタがタクシー専用として開発したJPNタクシーはLPGを使ったエンジンでのハイブリッド車(HV)で、発進での瞬発力の不足をモーター駆動で補えるので、穏やかな運転ができるようになったのではないか。
物流や公共機関のバスなどで天然ガスを利用した車両が街を走っている。だが、瞬発力の不足という点ではあまり変わらないだろう。そのことから、長距離移動のトラックや高速バスで見かけることはない。それに対し、市街地を走るトラックやバスであれば、出足がやや鈍くても、交通に悪影響を及ぼすことが少ないだろう。そして、ディーゼルエンジンに比べ有害物質の排出が少なければ、都会の大気汚染を予防することにつながる。
天然ガスを補給するステーションも新設や増設しなければ、乗用車には向かないだろう。そこは、水素ステーションも同じだし、タクシー用のLPGスタンドもあちこちにあるわけではない。
電気自動車(EV)を普及させることが乗用車には望ましく、EVであれば有害物質もCO2も排出せず、加速は鋭く、静かで乗り心地もよく、クルマの性能としてEVを上まわる存在を見つけることは難しい。