ポルシェ911の形はしているが中身はまったくの別物
このNATOをプロトタイプとしたモデルはルーフ初のタービン付きスペシャリティカー、BTRとしてデビュー。車名はグループBターボ・ルーフの略で、930ターボをベースに、排気量アップ、タービンの大型化、そして控えめなエアロパーツの追加がなされています。
次いで、BTRで蓄積されたノウハウをもとに、ツインターボを搭載したモデルが前述のCTR、グループCターボ・ルーフということに。
また、当時のルーフをさらにイメージアップさせていたのが、テストドライバーのステファン・ローザといえるでしょう。ニュルブルクリンクでフルカウンターがあてられたCTRの激走シーンや、旧富士スピードウェイでのドリフト走行ビデオなどで目にした方もいらっしゃるかと。その収録をリアルにこの目で見ていた筆者ですが、とにかく過激というより、一流レーシングドライバーと同じくきわめてスムースだったこと、いまだに忘れられません。彼のドライビングアピールなくしては、さすがのCTRといえどもあれほどのインパクトは発揮できなかったこと間違いありません。
さて、ルーフは911のモデルチェンジに伴って自社のスペシャリティカーもどんどん進化してきました。現状のラインアップだけを見てもCTRアニバーサリー、SCRといったトップモデルをはじめ、CTRの3代目にあたるCTR3はついにミッドシップモデルとなり、RCTやターボ・フローリオといった独自モデル、はたまたロデオ・コンセプトなる4輪駆動のクロスオーバーモデルのプロポーザルまで(本家ポルシェよりいち早く)リリースしています。日本でも正規輸入代理店が早くからあるので、国内でも予想よりはるかに多いルーフが走っているのです(前述のNATOも国内に!)。
ルーフのクルマづくりはひとことで言えば「精緻で完璧なフィニッシング」といったところでしょうか。だいたいチューニングカーだろうと、スペシャリティカーだろうと、オリジナルより仕上げがいいというのはごくまれなこと。つい先日までは切った貼ったの手作り感あふれるモデルもゴロゴロしていました。
一方のルーフは、CTRで用いられたアルミボディや、前後のFRP製エアロバンパー、はたまた専用アルミホイールに至るまで、誰もが認める高品質! チリが合わないとか、バランスがでないなんてこと一度たりとも聞いたことがありません。また、NAだろうとターボだろうと、しっかりカタログデータどおりのパフォーマンスを発揮するというのもルーフの美点といえるでしょう。世界各国、それぞれ仕向けが違うにも関わらず、同一のパフォーマンスを持たせることがいかに困難か、想像すらおよびません。
たしかに、CTRが最高速をマークしたあとで、真偽のほどは別として、「あれはバイザッハがゴミ箱に捨てたアイディアを買ったのだ」とか、「(燃料噴射デバイスの)モトロニックのチューニングはルーフ社内では不可能」などと陰口が聞こえたこともありました。が、ルーフはいまやカーボンモノコックシャシー、プッシュロッドサスペンション、4リッターのNAで510馬力を発揮するエンジンまで作っているメーカーです。ポルシェがやらなかったことにも果敢なまでにチャレンジして、ことごとく成功を収めている事実はそうした雑音を消し去るには十分すぎること。
ポルシェの形こそしていても、中身はれっきとしたルーフという唯一無二のスペシャリティカーなのです。