レストアされた「MR430」は見学が可能!
この「MR430」は軸数以外にも、路線用としては驚異的なサイズも特徴だ。三菱トラック・バス製の現行型路線車である「エアロスター」と比較すると、全幅こそ全く同一の2490mmだが、全長はエアロスターでもっとも長い都市型路線用ワンステップ車(MP35FP)で11450mmであるのに対し、MR430は11985mmとほぼ12mという長さにも驚かされる。ちなみに、一般的な路線バスの多くは全長が11m前後だ。また、前2軸のデメリットもあり、最小回転半径は11.8mもあり、現行型の全長11mクラスのエアロスターが最小回転半径9.8m、全長12mクラスの観光型であるエアロクイーンは9.5mと扱いやすい最小回転半径が時代を感じる部分だ。
この巨大なサイズをもっとも感じるのが乗車定員だ。前述のエアロスター(MP35FPF 都市型ワンステップ 中扉4枚折戸仕様)が座席:33人+立席:52人+乗務員:1人の86人乗り。一方のMR430は座席:46人+立席:62人+乗務員:2人の110名!まさに大量輸送向けの仕様であることがうかがえる。(レストア時に貸切車登録へ変更となったため、現在は立席なしの45人乗り)また、当時の旭川電気軌道では乗務員は1人のワンマン運行だったが、車掌用の機器を搭載したツーマン対応となっていた部分も時代を感じる。この乗車定員は通勤電車のようなオールロングシートであることが大きく貢献しており、車内のデッドスペースが多くなる現代のノンステップバスでは実現不可能な人数だ。
車体は「MR430」に限らず、この時代のバスは外板を骨組みにリベット留めとするモノコック構造が特徴。現代のバスはリベットを使用しないスケルトン構造と呼ばれるもので、1970年代後半から登場した構造。そのため、現代のバスと比べると「MR430」は非常に無骨な印象だ。バスのボディは乗用車と異なり、シャシーメーカーとボディメーカーが異なることがほとんどで、同一の車型でも異なるメーカーが製造している場合があるのも面白い。
「MR430」はシャシーメーカーが三菱だが、ボディは呉羽自動車工業(現:三菱ふそうバス製造)と、富士重工業(現:SUBARU)の2社によって製造。1963年から65年の間に2社合わせてわずか14台という販売台数はかなりのレアモデルといえる。とくに呉羽製はこのうちのたったの3台で、いずれも旭川バス(現:旭川電気軌道)が導入した。ちなみに富士重工製は国鉄(現:JRバス)と名古屋鉄道が導入したそうだ。
パワーユニットはDB34型 8.5リッター直列6気筒ディーゼルターボエンジンを搭載。当時公開されていたスペックは最高出力220馬力/2300rpm、最大トルク72m・kg/1,800rpmとなっていた。ちなみにこれまで比較対象で紹介してきたエアロスターは6M60型 7.5リッター直列6気筒4バルブSOHCディーゼルターボエンジンで、スペックは最高出力 270馬力/2500rpm、最大トルク80kgf-m/1100-2400とスペック上は大きく異ならないように感じる。
ただし、現代のモデルは環境に配慮し排ガス規制に適合したダウサイジングされた結果であり、一時は路線用エアロスターに6M70 13リッター直列6気筒 ディーゼルエンジンが搭載された歴史もあり、スペックは320馬力という高出力モデルも存在した。つまり、60年前と現代では、スペックは大きく変わらないものの、環境性能と省燃費を高次元で両立し、比較にならないほどクリーンなパワーユニットとなっている。
トランスミッションはシンクロなしの5速MT。こちらもエア式間接駆動のフィンガーシフトMTや機械式ATなどを経て、現行エアロスターではトルコン式6速ATとなっている。フロアから伸びたロッド式のシフトレバーに加え、変速にコツがいるシンクロ無しのトランスミッションと比べると、現行車のATは乗務員の疲労を軽減し、乗客の快適性や環境性能までも向上させるなど、60年前とは驚異的な進化といえるだろう。
バスといえば公共交通機関で多くの人が触れる乗り物。普段はさほど気に留めることのないクルマながら、こうして時の流れを見るとバスも大きく進化し、それを取り巻く環境や需要も大きく変化していることを感じる。
今回紹介した旭川電気軌道の「MR430」は公道走行可能状態ながら、レストアに携わった人によれば「走らせたらどこかが壊れる」と言われるほどデリケートな状態。それゆえにイベントなどを除き、基本的には走行せず、北海道旭川市東旭川町にある旭川電気軌道共栄バスセンターに隣接される、バリアフリー研修施設に格納されている。それでも美しく復元されたレアなバスは、見学可能エリアから窓越しに見ることが可能。見学料は無料で9:00~17:00の間で見ることができる。旭川を訪れた際は是非見ておきたい!