まるでコンセプトカーのようなルックス!
●宇宙船のような超未来的クーペボディ
3台目はマツダの「コスモスポーツ」です。世界初の2ローター・ロータリーエンジンを搭載した同車は、1963年の東京モーターショーへのプロトタイプ出品を経て、1967年にデビューしました。
「走るというより、飛ぶ感じ」という言葉を具現化した未来的なスタイルは、若手の社内デザイナー小林平治によるもの。丸いランプやラウンドしたリヤガラス、強く明快なキャラクターラインには「360クーペ」や初代「キャロル」の影響が見られ、同車を手掛けた小杉二郎の下での経験が生きたと言えそうです。
伸びやかで長いリヤオーバーハングと、キャラクターラインと平行するフロントフェンダーラインの組み合わせは、わずか1165mmの全高とともに、どこか宇宙船を思わせるほどの個性的スタイル。イメージカーとして、当初は市販の予定がなかったという縛りのなさが功を奏したのかもしれません。
●繊細で優雅な和製イタリアンクーペ
次はいすゞの「117クーペ」です。1960年代半ば、カロッツェリア・ギアは積極的に日本のメーカーと接触を持っていましたが、企業のイメージアップを図りたいと考えていたいすゞは、「フローリアン」の派生車のデザインを、チーフデザイナーであったジウジアーロに委託。1968年に発売されたのが117クーペです。
2ドア、4シーターのファストバックスタイルは完璧なプロポーション。前後ホイール部で大きな抑揚を持つフェンダーはいかにも当時のイタリア車を思わせる美しさです。また、意外なほど大きなキャビンは現代的なサイドグラフィックを持ち、その実用性の高さにジウジアーロらしさを感じます。
先のシルビア同様、ほぼハンドメイドとされる丸目の初期型の評価が高い同車ですが、量産版である角目の後期型も独特の個性を感じさせました。
●軽自動車とは思えない2シータースペシャリティ
さて、最後は発売がギリギリ1970年代になりますが、あえてスズキの「フロンテクーペ」とします。ホンダの「Z」など、スペシャリティで高出力の軽自動車が続々と登場していた当時、スズキが満を持して送り出したのが、1971年登場のフロンテクーペです。
3代目の「フロンテ」をベースに、軽自動車初の2シータークーペとしたボディは、先出のジウジアーロの案を元に、スズキのデザイナーがまとめたもの。もともとは1.5ボックス的で背の高い提案でしたが、そのエッセンスを巧妙にクーペスタイルへ落とし込みました。
ブラックの枠で締めたフロントグリルから、フェンダーを通ってルーフに続く一筆描きのような美しいキャビン形状。ボディ中央を走るキャラクターラインによるサイド面のアクセント、そして大胆に切り落とされたリヤエンドなど見所は満載。とても当時の軽規格とは思えない仕上がりでした。
●シンプルに美しさを追求した時代
さて、こうして1960年代のグッドデザインクーペを振り返ると、その美しさや大胆さにあらためて驚かされます。恐らく、まだ大規模なマーケティングが開発に導入されていなかった当時、社外のカロッツェリアはもちろん、社内デザイナーであっても、ひたすらに純粋な「美しさ」を追求していたのではないでしょうか。
そのシンプルな美の追求姿勢に、もしかしたら現在のカーデザインのヒントがあるかもしれません。