この記事をまとめると
■クルマの開発には数百億円かかるとも言われており新車の開発には体力が必要だ
■赤字覚悟でも市販する意味があると判断されたクルマは一か八かで市場に送り込まれる
■チャレンジ精神があったからこそ生まれた偉大なるクルマたちを紹介する
「よくやった!」と拍手せずにはいられないチャレンジモデルたち
自動車の開発にかかる予算については、メーカー自身も正確な数字を判断できないというが、おおよそのイメージとして数百億円以上には達するといわれている。もちろん、プラットフォームやパワートレインといった基本メカニズムはキャリーオーバーでボディ外板だけを変えた“スキンチェンジ”といわれるモデルチェンジにおいては、その限りではないだろうが……。
ちなみに、トヨタの研究開発費は1年間で1.1兆円。基礎研究も含まれているが、最終的には自動車という商品を販売することでペイしなくてはいけないのは変わらない。900万台を生産・販売しているとして、単純計算で1台あたり12万円ほどの研究開発費が乗っかっていると考えることもできる。
グローバルモデルであれば年間の販売台数が100万台に達することもある。モデルライフが5年として、さらに12万円という開発費相当の仮定の数字を当てはめると、ひとつのモデルで6000億円の研究開発費を担っている計算になる。
もちろん開発費の中には先進安全分野、コネクティッド分野など、特定車種に限らない領域もあるので、ひとつのモデルを開発するのに6000億円かかっているというのは誤解を招く言い方ではあるし、車種によって利益率は異なっているが、開発費というのは1000億円の単位でイメージすべきものといえる。
それだけのコストをかけるわけだから、一般ユーザーが言うような「こんなクルマがあれば売れるのに」といった思いつきレベルで新車の開発がスタートすることはあり得ない。
……ではあるが、世の中には例外もある。売れるかどうかわからなくても、メーカーのチャレンジとして莫大な予算を投じて新車開発を行なうこともある。
前置きが長くなったが、今回はそんな『清水の舞台から飛び降りる』くらいの決断によって生まれたクルマを、“きよぶたカー”と勝手に名付けて振り返ってみよう。
チャレンジングという意味で、最初に思いつくのはトヨタ・プリウス(初代)だ。1997年にハイブリッドカーを出すというのは、ビジネス的に成立するのか不明であったし、なにより見込み販売台数とハイブリッドシステムの開発費を勘案すると当面は赤字になるというのは確実といえたからだ。
しかし、トヨタの英断は成功した。初代プリウス自体の採算だけをみればビジネス的には赤字だったかもしれないが、プリウスによって開発した動力分割機構を持つトヨタ式ハイブリッドシステムは、その考え方を踏襲していまでも使われている。そして、ライバル他社のハイブリッドシステムよりも高効率で、好燃費を実現している。
初代プリウスがあったからこそ、いまのトヨタは存在できているといっても過言ではない。もっとも、トヨタ式ハイブリッドシステムが優秀すぎて、そこに固執してしまっている感もあるので、諸刃の剣といえるのかもしれない。
水素燃料電池車「MIRAI」もプリウス以来のチャレンジングな“きよぶたカー”といえる。そしてMIRAIで注目したいのは2代目モデルだ。
燃料電池車として世界初の量産モデルとなった初代MIRAIもインパクトはあったが、そのメカニズムを見ると、燃料電池ユニットこそ専用設計ながら、バッテリーや駆動モーターはハイブリッドカーで実績あるものを流用していた。その意味では手堅い設計で、コストを抑える意識が垣間見えた。
しかし、2020年にフルモデルチェンジした2代目MIRAIは、後輪駆動とするなど完全に別物に生まれ変わった。プラットフォーム自体はレクサスLSなどに採用されるものを手直ししているため、完全ゼロベースというわけではないが、燃料電池ユニットをはじめパワートレイン全般が新しくなるなど、かなりコストをかけたクルマに生まれ変わった。水素ステーションが身近にない場所では販売が難しいモデルを、ここまで大胆にフルモデルチェンジしたというのは、初代プリウスのときにも似た『新時代を作る』といった意気込みを感じてしまう。