製作手法がもはやチューニングメーカー!
さて、もう1台トヨタのチャレンジを感じたのは、FRスポーツカーの86をスバルとの共同開発により生み出したことだ。
スバルの伝統的アーキテクチャーである、水平対向エンジン+シンメトリカルAWDからフロント駆動を抜けば、そのままFRパワートレインになり得るという発想は、はっきり言ってチューニングカーのそれだからだ。
歴史を振り返ればわかるように、本質的にスバルのパワートレインというのは、あくまでもエンジン縦置きのFF用に生まれたものである。エンジンが縦置きなので自然に思えてしまうが、FFベースの4WDをFRにするという発想を自動車メーカーがしたというのは驚きであり、チャレンジングな決断だったと感じてしまう。
同じ時期に生まれたスポーツカーでいえば、ホンダS660もチャレンジングな”きよぶたカー”といえるだろう。
ミッドシップに積まれたエンジンこそN-BOXなどで量産されているものだったが、専用に6速MTを開発したほか、ボディは完全に専用設計だった。リヤサスペンションを支える大きなアルミダイキャスト製サブフレームを見れば、200万円台の軽自動車とは思えない贅沢な作りになっていることが実感できた。
なにより驚かされたのは、開発責任者(LPL)を若干22歳の若きモデラー、椋本 陵さんに任せたことだ。スポーツカーというのは情熱で生み出すもの、というホンダのスピリットが年齢や経験ではなく熱い想いを最優先した人事につながった。
軽自動車のスポーツカーということで、台数規模的にもそれほど多いわけではなく、逆算すれば開発予算もグローバルモデルに比べれば少なめの設定だったのだろうが、それでも、22歳のLPLというのは前代未聞であり、これほどのチャレンジングな決断から生まれたS660はホンダの伝説となること間違いない。