ごく自然に丁寧な運転ができるようになった
重苦しい雰囲気のまま、STIフレキシブルパーツ(フレキシブルフロントVバー/ドロースティフナーリヤ)装着済みの現行型BRZに乗り換え、まったく同じ道を同じペースで走る。すると、先ほどはガチガチになっていたのがウソのように緊張がときほどかれ、何も意識せずとも、スーッとスムースに走れているのがわかる。ハンドリングがどうのこうの、ではなく、ごく自然にクルマが綺麗に扱えている感覚で、とにかく運転がラクになっていたのだ。
辰己さんの表情も、ひとつめのカーブからパッと明るくなった。「マリオさん、明らかにコーナリングがスムースになっていますよ! 予想以上のわかりやすさですねこれは」と笑いながら、筆者の運転が上手くなったと頷く。それがお世辞や、パーツの効果を大げさにアピールする類いのものではないことは明らかだった。
STIのフレキシブルパーツの「運転がうまくなる」効果は、つまるところ、ドライバーがリラックスした状態でごく自然に丁寧な運転ができるようになる、ということ。それを強く実感できたのがこの体験である。
辰己さんによると、運転がしやすいクルマは「タイヤをジワリと路面に押し付ける」特性が大事だという。剛性が極めて高いように感じるドイツブランドのスポーツモデルでも、すべてをガチガチに固めたりはしておらず、過度に固くしない範囲で入力の伝達性を高め、タイヤにかかる力に唐突さがでないような設計になっているらしい。
あるいは、旧世代のイタリア/フランス車など、一見剛性が低そうに感じる車体でも、大事な部分は剛性を確保しているなど、ボディ剛性はとても奥が深い世界だ。新型車のデビュー時によく公開される「ねじり剛性○%アップ」などの数値だけでは、本当の良し悪しはわからないという。
最近のSUBARU車はプラットフォームが新世代のSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)となり、剛性はとても高く、衝突安全性でも世界一レベルの高さを誇っている。とりわけ、車体の前から後ろへ流れる縦の柱(フレーム)がとても強く、辰己さんが理想とするものと衝突安全性、動的な質感が両立できるプラットフォームだという。部分的に剛性が高すぎるところは、STIフレキシブルパーツで入力の伝達性を均一化をはかり調整。STIフレキシブルパーツは、SGPの良さをさらに引き出すパーツであると言えるのだ。
現行型BRZのプラットフォームは、正確にはSGPではないが、旧型BRZ用プラットフォームをベースにSGPの技術を盛り込んだ特殊なものなので、性能面は限りなくSGPに近くなったと言われる。
しかし、ボディのさらなる補剛やチューニングを行うとなると、旧型BRZやSGP車とは少し異なる面があるという。旧型BRZには設定されていた、アンダーフロアとクロスメンバー間のSTIフレキシブルドロースティフナーが現行型に設定されないのは、その特殊性によるのが理由だ。
現行型では必要がなくなったわけではなく、付ければこれまでどおりの効果は得られるらしいが、狙ってないところにも効いてしまい、ステアリングの戻り方に違和感を伴う挙動が見られるという。何度もテストを重ねた結果、フロントのフレキシブルVバーとフレキシブルドロースティフナーリヤだけで十分な効果が得られたので、現状では設定を見送っている。開発テストが進み、辰己さんが納得できるものになれば、将来的に設定される可能性はあるとのことだ。