全店が全車を扱うと趣味性の強い高価格車が落ち込む
「全店で全車を買えるほうが便利だから」という単純な理屈は、後から付けた言い訳だ。全店で全車を買えるほうが便利なら、最初から系列など用意しなかった。自動車業界の先輩方が聞いたら怒るだろう。
そして全店が全車を扱う体制はリストラだから、幸せなものではない。もっともわかりやすいのはホンダだ。2000年代の後半に、プリモ店/クリオ店/ベルノ店を廃止してホンダカーズに統合すると、ダウンサイジングが急速に進んだ。それまではクリオ店は専売車種のアコード、ベルノ店はインテグラなどに力を入れたが、全店が全車を扱うと、売れ筋が販売しやすいコンパクトな車種に偏ってきた。
この販売動向を最初に実感したのは、2001年に登場した初代フィットだった。当時のホンダには系列があったが、フィットは3系列のすべてが販売しており、系列に捕らわれず絶好調に売られた。2002年には国内のベストセラーになり、ミドルサイズミニバンのストリームなどは、ユーザーをフィットに奪われた。
今はこの状態がエスカレートして、国内で売られるホンダ車の30%以上をN-BOXが占める。軽自動車全体になると50%を超える。そこにコンパクトなフィット、フリード、ヴェゼルを加えると70〜80%に達するのだ。
つまり全店が全車を扱うと、実用的で価格の割安な車種が売れ行きを伸ばし、趣味性の強い高価格車は落ち込む。日産も今では軽自動車のルークスやデイズが多く、小型/普通車で堅調に販売されているのはノート、ノートオーラ、セレナ程度だ。日産はこの状況を肯定してノートシリーズを充実させ、ほかの小型車は事実上リストラした。従って系列が撤廃されると、ユーザーの選択肢が減ってしまう。
クラウンも同様だ。セダンの人気が下がった矢先に、全店が全車を扱う体制に移行したから、クラウンのユーザーがアルファードやハリアーに移った。以前ならトヨタ店は、専売車種になるクラウンのユーザーが、トヨペット店のアルファードやハリアーに乗り替えるのを阻止した。しかし全店が全車を扱えば、その必要はない。トヨタ店で、クラウンからアルファードなどに乗り替えるユーザーが増えた。
その結果、クラウンの売れ行きが下がり、クロスオーバーに発展する異例のフルモデルチェンジに至った。トヨタの商品企画担当者は、「クラウンは、クラウンのお客様、トヨタ店の皆様、トヨタが一緒に育てたクルマだと思っている」と語っていた。販売系列があってのトヨタ車だ。トヨタに限らず、国内販売の本質を突いた言葉だと思う。