だからトヨタは強い! 全店全車取り扱いでも「中身は同じ」な「ノア」と「ヴォクシー」を残すしたたかな戦略 (1/2ページ)

この記事をまとめると

■トヨタ系正規ディーラー全店において、全車種の購入が可能となった

■兄弟車は必要なくなったようにも思えるが、新型ノア&ヴォクシーが登場

■いまだに兄弟車が販売される理由を考察する

あえて消費者に選択肢を与えている

 2020年5月より、トヨタ系正規ディーラー全店において、トヨタ車すべてが購入できるようになった。トヨタ系正規ディーラーはいまだに多くの地域で、トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店となる販売ディーラー4チャンネル体制を維持している。そして過去には、トヨタ店にはクラウン、トヨペット店にはアルファード、カローラ店にはカローラ、ネッツ店にはヴィッツといった、それぞれのチャンネルのみでしか買えない専売車種というものが存在していた。2020年5月を待たずにすでにプリウスやアクアなど全店扱い車が売れ筋モデルとなるケースも目立っていた。国内新車販売台数の減少、つまり市場縮小傾向が続くなか、中長期的に見れば国内販売網の再構築を進めるためもあり、全店全車種扱いが実施されたともいわれている。

 2020年5月には商用車の一部を除き、それまでのトヨタ車のラインアップはほぼ統廃合なく全店全車種扱い化が進められた。そのため、同じ店でプレミオ&アリオンやアルファード&ヴェルファイアなど、過去に専売車種があった時代に、たとえばトヨペット店扱いのアルファードに対し、ネッツ店扱いのヴェルファイアなどと兄弟車が設定されたが、その兄弟車がそのまま同じ店舗で購入することができることとなった。

 プレミオ&アリオンみたいに兄弟車ごと絶版となるケースがある一方、ルーミー&タンクのように、ルーミーのみになり全店扱いが続くケースもあった。しかし、アルファード&ヴェルファイアやノア&ヴォクシーなど、いまだに兄弟車がそのまま残って販売されているケースもある。

 たとえばノア&ヴォクシーでは、日産セレナ、ホンダ・ステップワゴンといった、他メーカーライバル車とのまさにガチンコとなる販売競争が続いている。自販連(日本自動車販売協会連合会)の統計によると、2022事業年度締め上半期(2022年4月~2022年9月)車名(通称名)別販売台数をみると、ノアが2万9265台、ヴォクシーが2万6716台となっている。これに対して、ステップワゴンは1万8710台、セレナは2万6666台となっている。

 車名別に見れば、セレナはフルモデルチェンジを控えた末期モデル状態であったので、大健闘である数字であるし、5月下旬にフルモデルチェンジを行い、ある意味ハンデを背負っていたステップワゴンもノアやヴォクシーに対して見劣りする実績でもない(半導体不足などの影響があり生産遅延による納期遅延が続いているなかというのを考えても健闘している)。

 しかし、これをメーカー別同カテゴリーミニバン販売台数でみると話が異なってくる。つまり、トヨタというくくりにすると、ノアとヴォクシーを合算した数字である5万5981台となり、このカテゴリーではトヨタの圧勝となる。国内販売でも人気の高いミニバンで量販の期待できるカテゴリーなので、囲い込み(他メーカーに逃がさない)のためにも、ノアもしくはヴォクシーのどちらかに一本化せずに、あえて消費者に選択肢を与えているといっていいだろう。

 アルファード&ヴェルファイアでも、販売台数ではアルファードが圧倒的に多いが、それでも「アルファードはいまひとつ」といったひとも受注に持っていきたいとの理由もあり、ヴェルファイアが残されているものと考えていい。また、ヴェルファイアはアルファードとともに海外輸出も行っているので、生産の都合上、日本市場でも残されているのかもしれない。

 トヨタディーラーの全店全車種取り扱い化により、それまでの専売車はクラウンなどごく一部を除き販売台数を大きく伸ばし、今日のトヨタ一強の販売状況を生むのに貢献したと言っても過言ではない。全店で全車種を取り扱うようになると、モデルラインアップが減っていくことをネガティブに捉える声もあるようだが、メーカーもボランティアで自動車を生産しているわけでないので、採算がとれない(つまりニーズもない)とまでは言わないが、極端に販売台数の少ないモデルの生産を終了するのは、市場の縮小傾向も考えればやむを得ない。そうはいっても闇雲に兄弟車を一本化するわけでもないのは、ノア&ヴォクシーなどの例を見れば明らかだろう。


小林敦志 ATSUSHI KOBAYASHI

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