鋭い加速感を抑えたEVらしくない違和感ゼロのドライブフィール
リモコンキーでドアのロックを外してシートに腰を下ろすと、システムが起動していて走り出せる準備が整っていた。わざわざスタートスイッチを押すまでもない、というわけだ。これは軽く驚かされた。降りるときも同様で、シフトセレクターでパーキングを選び、シートから抜け出して、キーをロックすればシステムが自動的にオフになる。たったひと手間を省けるだけだから楽だとか何だとかそういうことでもないのだけど、何だかそれがヤケに新鮮に感じられた。内燃機関のクルマだと、こうはいかない。
で、走らせてみた印象なのだけど、これがもうおもしろいくらいにフォルクスワーゲンだった。何ひとつ尖ってたり出しゃばってたりするところがなく、といって何か不足を感じるコトやモノがあるわけでもなく、ずっと穏やかな気持ちでいられ、その間中「ああ、いいクルマだなぁ」とニンマリしながら満足感や充足感のようなものを感じていられるクルマ、なのだ。まるでゴルフやポロを走らせてるかのような、そんな感覚でいられたのだ。
いや、誤解なきようにお伝えしておくけれど、EVならではのメリットはしっかり感じられる。室内はいかなるときも静けさに満ちているし、常に腰の据わった安心感のようなものを感じていられるし、見た目からは想像つかないくらいによく曲がる。
もちろんアクセルペダルを踏んだ瞬間から間髪入れずに力強い加速を味わわせてくれる。が、アクセルペダルをベタッと踏み込んでも、おっ、来たぞ! みたいに驚くほどの鋭い加速感はない。
何せ0-100km/h加速は8.5秒。引き合いに出すなら、バッテリー容量42kWhで118馬力と220Nmのフィアット500eより、たった0.5秒速いだけなのだ。回生ブレーキによる減速力も極めてマイルドで、D(ドライブ)モードからB(ブレーキ)モードに切り換えてもグッと来るような減速感はない。
つまり、やればできるけどあえてやらない、ということなのだろう。EVとしての“らしさ”を強調して“どうだ? すげーだろ?”とやるのではなく、それらをしっかりと活かしつつ誰もが違和感を覚えずにドライブできるクルマに仕立てた、ということなのだ。乗り心地までこれまでのフォルクスワーゲンによく似たライドフィールで、なかなか良好なのだ。そんなところもまた、フォルクスワーゲンらしい優しさ、である。
充電は200Vの普通充電とCHAdeMo規格の急速充電。今回の77kWhのバッテリーを積む“Pro”モデルでは、90Kwの急速充電器を使えばバッテリー警告灯が点いてから80%まで約40分、6kWの普通充電では残量ゼロから満充電まで約13時間。
よくできたEVだとか走らせて楽しさの濃いEVに乗るたびに思うのは、日本の充電インフラがもっと飛躍的によくなればいいのにな、ということ。今回もしみじみそう思わされた。