電動車の低速走行時の走行音には細かい規定が存在していた
静音性車両に係る協定規則にある条件をおおまかに紹介すると、まず10km/h及び20km/hでの前進走行時、及び後退走行時について、車両走行中心線から側方2.0m、地上高1.2mに設置されたマイクロホンで特性音圧レベル(dB)を測定し、周波数分析を行います。その際に装置から発せられる音が、協定規則(R138)で定められるoverall レベル及び1/3オクターブバンドごとのレベルを超えることが求められます。overall レベルは10km/hで50dB、20km/hで56dB、 後退時で47dBとなっています。周波数については、少なくともふたつのバンドで定められたレベルを超えることと、そのうちひとつ以上のバンドは中心周波数が1.6 kHz以下のバンドであることとされています。
さらに、速度に応じて周波数特性が変化することも求められ、発生する音のなかで、少なくともひとつの成分音が5〜20km/hの速度域で1km/hあたり0.8%シフトすることという規定もあります。そのうえで、不適当とされる音も記載されており、「サイレン、チャイム、ベル及びメロディ音」「警音器の音」「鳴き声など動物や昆虫が発する音」「波、風及び川の流れなどの自然現象の音」「そのほか、常識的に車両から発せられることが想定できない音」に当てはまる音がNG。いやはや、細かいですよね。
そんなわけで、どうやら音量や周波数をクリアしたとしても、「ナイトライダー」のメロディなどは認可されそうもないことがわかります。残念ですが、そもそもこの車両接近通報装置は、歩行者に危険を知らせることが第一の目的のはず。とくに視覚に障害を持つ方からすれば、メーカーや車種ごとに違った音が鳴るのではなく、電動化車両=この音、という世界共通の音にしてもらったほうが、本来の目的に合っているのではないでしょうか。
とはいえ現状では、各メーカーが規定やメーカーポリシーに則ってさまざまな音を開発しています。先日発表されたメルセデス・ベンツのEV、EQSでは、「Silver Waves」「Vivid Flux」「Roaring Pulse(オプション)」という3タイプの音を任意で選べるようになっています。また、AMG 53 EQSでは「Authentic」「Performance」の2タイプがあり、「Performance」に設定しておくとドアを開け閉めしただけでもフォンッといった迫力のある音が響いて周囲の注目を集めました。
こうした次世代自動車と音の関係性はまだまだ始まったばかり。歩行者の安全を守りつつ、誰もが気持ちよく耳にできるような音が定着することを願います。