静かで滑らかな回転は最高レベルの直6とV12
そして6気筒だが、6気筒には直列6気筒のほか、V型6気筒、水平対向6気筒もあるが、ここでのテーマは直列6気筒とする。直列6気筒のクランク角は120度となり、考え方としては直列3気筒を2基つないだものと見なしてさし支えない。回転振動に関しても、3気筒と同じく1次/2次振動は発生せず、小さな6次振動が発生するのみで、極めて滑らかなまわり方となっている。また、クランクシャフトを中央とする前後3気筒ずつの動きが対称となるため、偶力の発生も見られない。
ピストンの上下動に伴う振動で問題となるのは、1次/2次振動で、3次振動から上は周波数も高くなり、ほとんど問題のないレベルとなっている。このため、1次振動対策(単気筒)としてはクランクシャフトと等速で回転するバランスシャフト、2次振動対策(4気筒)としてはクランクシャフトの2倍速で回転するバランスシャフトを設ける例が一般的となっていたが、絶対的な振動が小さな小排気量エンジンでは、コスト、重量などの面も考慮し、現在でも省かれる場合もある。
なお、三菱自動車が特許を持つサイレントシャフト方式(1974年実用化)は、2本のバランスシャフトの高さを変えて配置することで、振動のみならず起振モーメントの打ち消しもできる方式として、世界から大きく注目された経緯がある。
一方、偶力が発生する3気筒、5気筒エンジンでは、シリンダー両端のピストン上下動と反対になる位置にウェイトを装着したバランスシャフトを、クランクシャフトと逆回転で回すことにより、偶力をキャンセルする方式が実用化されている。ただし、これも振動対策で設けられたバランスシャフト同様、排気量やその他の理由によって装備されない場合もある。
次に、クランクシャフトの回転によって発生する振動だが、クランクシャフトにはピストンの上下動による振動を打ち消すため、ピストンと同じ重さのウェイトがクランクシャフトに設けられている。ピストンが上死点にある位置で、その正反対の方向(真下)にあるクランクアームに、ピストンと等質量のウェイトを設定するのである。
ただし、ウェイト重量は、クランクピンの位置が0度、180度付近の場合は有効なのだが、90度/270度の位置ではピストンの上下動に対してカウンターウェイトは90度直交した位置となるため、ピストンの動きをキャンセルすることができない。逆に、カウンターウェイトが左右方向に揺れることで振動が発生するため、実際にはカウンターウェイトの重量をピストン重量の2分の1程度に設定される場合が多い。
また、カウンターウェイトによって発生する振動を抑えるため、カウンターウェイトの重量に等しいバランスウェイトを備えるシャフトを設け、クランクシャフトと逆回転させることで振動のつり合いをとる対策も採られている。
さて、V型12気筒が最後になってしまったが、ほぼ完全バランス(1次/2次振動の発生なし、偶力の発生もなし)の直列6気筒を2基組み合わせた形となるV型12気筒だけに、回転バランスに関して問題が起きるはずもない。気筒数が6気筒の倍となることから点火タイミングは半分(720度の12分の1、60度間隔)になり、直列6気筒よりさらにスムースで振動のないまわり方となるのは当然で、重量、サイズを考慮しなければ、回転バランスに関して最高のシリンダーレイアウトと言われるのはこのためだ。
直列6気筒、V型12気筒は、エンジン全長が長くなり、車体への搭載に関してやりにくい部分も存在するが「シルキーシックス」の形容に代表されるよう、静かで滑らかなまわり方は最高レベルにある。ただ、現在はエンジンのコンパクト化のため、6気筒は直列でなくV型が採用される例が多い。