この記事をまとめると
■直6とV12がなぜ回転バランスエンジンと言われるかをそれ以外のエンジンの特徴と合わせて解説
■単気筒から5気筒までのエンジンはそれぞれピストン運動やクランク回転運動の際に振動を発してしまう
■直6とV12は6次振動以外は発生せず、偶力も各気筒が対処に動くことで打ち消すことができる
直6とV12以外のエンジンでは大きな振動が発せられる
直列6気筒、V型12気筒はなぜ回転バランスに優れると言われるのか? もはや常識、いまさら説明の必要もないだろう、と無意識のうちにスルーしていた問題だが、編集部が素朴な疑問を提示してきた。たしかに車両紹介などで直6、V12は、とくに説明もなく無条件で回転バランスに優れると紹介しているが、ではなぜなのか、その理由を考えたことはあるだろうか? そこで今回は原点に立ち返り、直6、V12の回転バランスについて考えてみることにした。
とは言うものの、まず結論ありきとして、直列6気筒とV型12気筒は、ほかのシリンダーレイアウトに較べ、回転バランスに優れ、滑らかで振動のないまわり方をするエンジンということを先に断言しておこう。この2型式は、それほどまでに優れた方式である。
さて、運転中のエンジンが発生する振動だが、その原因のほとんどは、ピストンの上下運動とクランクシャフトの回転運動によって生まれるものと考えてよい。
まず、ピストンの上下運動によって発生する振動だが、これはシリンダー内を上下するピストンの動きとクランクシャフトの回転位置(角度)を付け合わせてみると理解しやすいと思う。ピストンの位置は、クランク位置角0度(360度)のときが上死点(=ピストン位置はトップエンド)、クランク位置角180度のときが下死点(=ピストン位置はボトムエンド)、そしてクランク角90度のときと270度のときに、ピストンは上死点と下死点の中間に位置しそうに思えるのだが、じつは中間点よりやや下死点側に位置することになる(興味のある方は三角関数でご確認を)。
つまり、クランクシャフトの270度から90度までの上半分回転領域と90度から270度までの下半分回転領域では、ピストンスピードが異なることから慣性力が発生し、これが振動となってエンジンの回転運転に悪影響をおよぼすことになる。
さて、単気筒エンジン、直列2気筒エンジン(360度クランクの場合)でクランクシャフトが1回転した場合、ピストン重心位置の変化から1度だけ振動が発生する。クランク1回転で1度振動することから、この振動を1次振動と呼ぶ。この1次振動は大きな振動で、正常なエンジンの回転運動に対して支障をおよぼすものと考えてよい。
次に180度クランクの直列2気筒エンジンを考えてみよう。それぞれのピストンの動きが対称となるので、1次振動は打ち消しあうかたちになるが、クランク位置90度のときと270度のとき、両ピストンの位置が中間点に対してズレるため(片方が上、もう一方が下)、両ピストンの動きを合計するとクランク1回転につき2度の振動が発生することになる。これを2次振動といい、1次振動より小さいがそれでも無視できない大きさだ。
また、クランクシャフト中央に対し、それぞれのピストンの動きが対称にならないので、クランクシャフトにシーソー運動が起きることになる。これを偶力といい、180度クランクの2気筒には2次振動と偶力が発生することになる。
最近、世界的潮流となっているダウンサイジングで実用例が増えている直列3気筒エンジンはどうだろうか。クランク角は120度だ。じつはこの3気筒方式、回転振動に優れた方式で、1次/2次振動は発生せず、6次振動が微妙に見られる程度である。
この6次振動は、エンジンの回転運動上ほとんど無視できる小さなもので、3気筒は回転バランスに優れた方式となる。ただ、クランクシャフト中央に対し、それをはさむ前後のピストンが非対称な位置にあるため、偶力は発生してしまう。
直列4気筒エンジンは、クランク角が2気筒ずつ対となるため、回転振動に関しては180度クランクの2気筒と同じく、2次振動が発生してしまう。ただ、クランクシャフト中央に対し、前後2気筒ずつの動きが同じになるため偶力は発生しない。この点が2気筒(180度クランク)と異なるが、2次振動を打ち消すための対策は必要となる。
世界的にも稀な例となるが、アウディがかつて好んで使った直列5気筒はどうだろうか。クランク角は72度となり、5気筒の動きを合計した回転振動は、実用上の問題となる1次/2次振動は発生せず、わずかに10次振動が見られる程度だ。
振動のレベルとしては小さく、実用上の問題はまったくない。ただし、クランクシャフト中央に対して前後のシリンダー(ピストン)の動きが異なるため、偶力の発生は避けられない。