この記事をまとめると
■二酸化炭素の排出ゼロはEV以外でも可能ではないかと提言するトヨタ
■トヨタは将来的にEV以外の選択肢がユーザーにあってもいいだろうという価値観を重く見ている
■水素燃料車で着目すべき点は無公害機関であることとガソリン/ディーゼルと同じ運転感覚であることだ。
EVだけでなく水素でも未来に挑むトヨタの狙い
本サイトでもたびたび触れているように、現在クルマを取り巻く環境は、二酸化炭素排出削減(無排出化)に向けてまっしぐら、という状況だ。別の表現を使うなら、化石燃料(=含炭素成分)を燃やして動力源とする限り、二酸化炭素の排出は避けられず、脱炭素による新エネルギー源の確立が急務で図られている、ということである。そして、周知のように自動車業界が採った選択肢は、バッテリー電源によるEVの実用化だった。
実際のところ、世界中の自動車メーカーがEVの研究開発に腐心しているが、このタイミングで、二酸化炭素の排出ゼロはEV以外でも可能ではないか、と提言するメーカーが現れた。車両の年間販売台数で世界一、二を争うトヨタである。内燃機関でも水素を燃料とすれば、二酸化炭素の排出をゼロとすることができる、と実用化に挑んだのである。
正確には、まだ開発途上の技術だが、サーキットレースを実験開発の場として積極活用し、そこで着実に完成度を高めている最中だ。現状は、スーパー耐久シリーズに水素燃料のカローラを投入し、今年で2シーズン目を数える段階だが、すでにはっきりとした進歩を示し、ガソリン車と遜色のない性能レベルに達していることが確認されている。
では、なぜトヨタだけが水素燃料車の研究開発を手掛けているのか? 自動車が排出する二酸化炭素をゼロにしようとすれば、化石燃料を使わず電気を動力源とするEVが正解への最短距離のように思えるが、充電システムをどうするか、充電する電気の発電をどうするか、という大きな問題があり、理論的にEVの製造が可能であるというだけでは実用化が難しいというのが現状だ。ただ、EVが走行する上で二酸化炭素はおろか排出ガスそのものが存在しない、発生しない、という事実は大きい。
結果的に、無公害自動車としてEVが注目を浴び、世の中の趨勢がこれに向かって流れていくと、新たに参入するメーカーはEV以外の選択肢が選びにくくなる。逆に、EVの選択がEV化の流れを大きくする働きもある。また、世の中全体がEV化に向かっていれば、充電システムや発電方法は社会全体での問題として対処され、EV化を実行した企業だけがリスクを負わずにすむメリットもある。
こうした状況下で水素燃料車の研究開発に乗り出したトヨタだが、なぜ水素燃料車に着目したのだろうか。最大の理由は、水素を内燃機関の燃料とすれば、燃焼による二酸化炭素を初めとする有害ガスの発生がないためだが、その上で、トヨタはEV以外の選択肢がユーザーにあってもよいだろう、という価値観を重く見たためだ。
水素を燃料とする内燃機関の使い勝手、ドライバビリティは、これまでのガソリン機関やディーゼル機関と同じ感覚で扱うことができる。アクセルを踏み込み、エンジンの回転上昇とともにトルクが増大し、ある回転域を過ぎると減少傾向に転じる。この特性に合わせてトランスミッションによる変速作用が必要となる。表現を換えれば、人間は自動車誕生以来140年間、2次曲線を描く内燃機関の運転感覚に慣れ親しんできたことになる。
逆に、電気モーターを使うEVは、その特性から基本的に変速機は不要。起動時に最大トルクを発生し、アクセル(車速コントローラー)の操作に対して直線的な反応(1次関数)が示される。