メーカーの色は変わりつつある
そもそも、今日では世界一の販売台数を誇る巨大メーカーであるトヨタ。当然ながら幅広い層に販売していかなければ日本一や世界一にはなれない。そうなれば、一部のコアなファンに支持されるより、万人に評価されるモデルを開発し販売していかなければならないのだから、コアなファンが目立たないのは自然の流れにも見える。
アメリカのテレビドラマでは、セリフで車名が出てくるなどクルマを小道具として効果的に使っている。そんなアメリカのドラマを見ていると、たとえば刑事ドラマで被害者がごく一般的な市民であることを印象付けるためなのか、「被害者のクルマはトヨタ・カムリです」といったセリフが入ることも少なくない。故障が少なく、燃費も良く、価格もそこそこでリセールバリューの良いトヨタ車、とくにアメリカでのカローラセダン的存在となるカムリというのは、ごく普通のアメリカ人というキャラを印象付けるのには効果的なようだ。
しかし、豊田章男氏が社長に就任すると風向きが変わってきた。それまでは、どちらかといえばVW(フォルクスワーゲン)的だった、つまり実用性を重んじていたようなクルマ作りが変わってきたのである。トヨタだけではなく、メルセデスベンツなど量販ブランドユーザーの高齢化がアメリカはじめ世界中で目立っていた。メルセデスベンツはアメリカだけではなく、世界的にFF方式のコンパクトモデルの積極投入を行うようになって久しいが、これも若者や新たなユーザー層獲得を意識したものと見る話も聞いている。
トヨタも豊田章男社長の時代になると、若年層を中心とした新たなユーザー層を獲得するためもあったのか、登場当初は「ずいぶん思い切ったなあ」といわれるような外観デザインを採用するようになった。技術面でもクルマとしての今まで以上の基本性能の強化や、最新トレンドを積極投入する姿勢を見せてきた。またTRDやGRといった趣味性を強調したブランドモデルなどのラインアップも強化した。
筆者は30年以上歴代カローラセダンを乗り継いできており、いまは改良前の現行カローラセダンに乗っているが、見た目や走行性能も含め、“カローラですら”という表現は少々失礼かもしれないが、明らかに流れが変わったことを実感している。明らかに豊田章男社長の考えるクルマ作りというものが会社全体に浸透し、それがここへきて実車にあますことなく反映されてきていることを末端のトヨタ車ユーザーとして感じている。
筆者は熱狂的なカローラセダンファンを自負している。つまり、トヨタ車ユーザーにまったく熱狂的なファンがいないわけでもない。世界一の販売台数を誇り、国内販売シェアも圧倒的に多いトヨタだからこそ、熱狂的ファンが見えにいといった表現のほうがいままではふさわしく、最近のモデルラインアップを見ていると今後、熱狂的ファンは増えていく可能性を秘めているといっていいかもしれない。