モーターショーも大いに政治に活用するマクロン大統領
今回のモンディアル・ドゥ・パリでは、政府が株主として15%を握るルノー、そしてフランスでもうひとつの有力グループであるステランティスのブースだけでなく、2時間近くをかけて大小、スタートアップを含めて色々なブースを視察していた。
というのも、フランスには2018年より政府担当者と自動車コンストラクターやモビリティ関連企業が水平的に集って、将来的な方向性を話し合うコンソーシアムとして「プラットフォルム・オートモビル(PFA)」という枠組がある。当然、ルノーもステランティスもメンバーに名を連ね、議長はサルコジ前々大統領の時代に、ロレアルのマーケティング部長から政治家に転身して教育相を務めたリュック・シャテルが就任している。政府と民間を繋ぐのに適任の人物、という訳だ。
正直、自工会の焼き直し的組織ぐらいに思っていたが、どうやら機能しているようで、パリ・モーターショーの各ブースでは経済産業担当大臣らに先んじて、リュック・シャテルが大統領の向かう先々をリードしていた。
それにしても、マクロン大統領のお気に入りはピュアEVのようだ。ルノーのルカ・デ・メオ会長にコンセプトカー「4EVER」トロフィーを紹介されている間、目を輝かせっ放しだった。逆にステランティス・グループのブースでは、今回のショーの市販モデルとしては来場者人気ナンバーワンだったプジョー408 PHEVの前では、どこか思案顔。
マクロン大統領を前に、ステランティスのカルロス・タヴァレス会長はスピーチで、同グループがプジョー e308や同SW、e408などを投入し、EVを既存の6モデルから12モデルに増やしてフランスの生産拠点で生産していることを強調。続いてマイクをとったマクロン大統領は、2030年までにフランス国内でEV生産200万台という目標に向かって、順調に推移していると力強く演説した。中間目標として彼は、2023年の自身の任期終了までに、フランス国内のEV生産100万台という目標を掲げている。加えて翌日、経済紙でのインタビューで、彼はさらにEV補助金を6000ユーロから7000ユーロに増やす方針を明らかにした。
つまり、今回の燃料不足騒ぎで、労使間の妥協や調整がはっきりと入らないような長引き方と、既存のEVではなくメイド・イン・フランスEVの檜舞台となったパリ・モーターショーの不思議な盛り上がり方は、おそらくリンクしている。いわば燃料不足がEVのキャンペーンになっているという、マクロン劇場だったのだ。
とどのつまり、フランス政府の究極の目標は、脱CO2そのものを欧州や世界で先駆けること以上に、脱化石燃料、つまり長期的に外交面で産油国の優位的立場やオイルマネーの影響を排除していく、そんな現実路線が垣間見える。
ただし、どこのメーカーの関係者に聞いても、ICEを一朝一夕に止めることは現実的ではなく、ユーロ7以降のルール策定次第という。EVは無論、カーボンニュートラル化の先兵ではある。EVの割合が増える分だけ、CO2相殺によるゼロ・バランス化に近づきやすくなる、という考え方だ。ガソリンスタンドの前にできた行列の横を、フィアット500eやテスラのモデルSが通り抜けていくのは、なかなか皮肉なシーンだった。