水素の生成とコスト・インフラの整備など難題が山積み
水素の値段もまだ確定的になっていない。いま日本で販売されている水素の価格は、同等車種のハイブリッド車の燃料消費を基準に暫定的に算定された値段である。また、既存の水素の多くは、化石燃料を基につくられている。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを使って水を電気分解すれば、脱二酸化炭素の水素が手に入るというが、では、その水はどのような水を使うのか、明確には語られていない。実際には、純水と呼ばれる不純物を含まない水でなければ電気分解できず、純水を作るための装置はあっても、それを稼働させるのにエネルギーがいる。
世界には、安全な水を利用できない人が数十億人いるとされており、すでに気候変動が起きている現在、干ばつが広がり、容易に水を手に入れられない状況が差し迫っている。まず、人が生きるための飲み水の手配が先であるはずだ。
いずれにしても、水素は一次エネルギーではなく何かから製造しなければならない二次エネルギーだ。そこで、電力を含めエネルギー消費が存在する。
ほかにも、70MPaの高圧で水素ガスを充填するには、より高圧の80MPaまで高めてから充填する必要がある。そこまで高圧にするには、現状では二酸化炭素排出量を増大させ、脱二酸化炭素に資する適正な圧力は35MPaまでとする試算結果もある。
国内においては、水素ステーション設置に500平方メートル(約150坪)の敷地が必要とされており、ことに都市部では地価が高いため、台数の限られるFCVのための事業に乗り出すには、損得勘定が成り立ちにくい。
以上のように、未来的な雰囲気のある水素だが、扱いや製造、事業としての採算など、電気自動車(EV)以上に実現には難しさがある。そこで海外を含め、物流での活用に道を拓く試みがある。しかし、こちらも大型トラックやトレーラーでの過酷な使用条件では、耐久信頼性で厳しいとの声もある。
未来への挑戦は大切だ。しかし、原理原則や社会の実態を踏まえたうえでの挑戦でなければ、臍を噛む懸念が残る。