世界最高峰のクルマはなにもかも異次元だった
続いて第2位は、ドライバーズシート側のドアを開く前から手足に微妙な震えが止まらなかった1台。それはスーパースポーツでもハイパーカーでもなく、ロールス・ロイスの「ファントム・エクステンデッド」だ。
もちろんこれまでにも、リヤシートに座るVIPのためにロングホイールベースを採用したモデルには数えきれないくらい試乗してきた。実際にボディサイズを比較してみても、たとえばBMWの760Li xDriveが全長で5265mm、メルセデス・マイバッハの680 4MATICは同様に5489mm、それに対してファントムのエクステンデッドは5990mmだから、大柄ではあるものの絶望的な大きさではない。
問題は、やはりロールス・ロイスというブランドのトップモデルをドライブするという精神的な緊張にあったのだろう。「オレ、このクルマ運転できるのか」。それは運転免許証を取り立てのころ、ごく普通のクルマに抱いた感情と同じものだった。
スムースに走り出したファントムの車内は、完全に自分だけの独立した世界。外の雑音も、あるいはオーディオのスイッチを入れる余裕もない。その独特な感覚はきっといまでも変わることはないのだろう。
そして動かすのに、というか走ることにもっとも苦労した1台の名前をあげよと問われれば、すぐに頭に浮かぶのはフェラーリのF50だ。
その過激な過給特性からF40のドライブの難しさを指摘する人もいるかもしれないが、カーボン製のセンターモノコックに自然吸気のV型12気筒エンジンをリジッドマウントし、このエンジンをも構造材の一部として使用する、まさにF1マシンそのものの設計ともいえるF50は、そのダイナミックなスタイリングこそ魅力的だが、前で触れたXJR-15と同様に走行中のノイズや振動はその優美さとは対照的に、こちらもレーシングカー並みのフィーリング。
フェラーリにもオーナーからそのような指摘が多く届いたのだろう。後継車のエンツォでは、エンジンはサブフレーム上にマウントされることになった。F50はコーナリングもなかなか難しい。もちろんコレクターズアイテムとしての価値は超一流だから、少しくらいの欠点でそれを手放すオーナーなどいないとは思うが。