インフィニティM45に戻すために光岡ガリューXを買った謎のカーライフ! モータージャーナリストの愛車インプレ【鵜飼 誠編】 (2/2ページ)

オーバードライブをカットして走っているような乗り味

 では、なぜにY34ベースのM45にこだわるか、という点だが、一番は最後のグロリアだから、というところだ。先にも述べたように、プリンス党の残党としては、これは大切なポイントである。正直、Y34のあとの、日本では初代フーガ450GTとして売られたY50をベースにした2代目M45には興味は持てなかった。450GT自体も非常にセンセーショナルな存在ではあったが、そのテストベッド的に日本では販売されなかった、北米仕向けに限って“Y34+4.5リッターV8”という組み合わせが実践されていたのだ。

 そもそも、結構熱心なUSDMファンでも、Y34が北米で売られていたことを知らない(≒興味がない)という向きは少なくない。アメリカ在住のクルマ好きの友人に聞いても、「走ってたら思わず写真に撮っちゃうよ。あれはカルトカーだね(笑)」って返事が返ってくるほどで、正直、超不人気車だ。M45はレクサスのGSを意識して、ミドルクラスにフルサイズ用の大排気量V8を積む、そう“アメリカン・マッスルカー”の定義で開発されたクルマだ。

 だがしかし、ここは僕の多分に推測ではあるだが、国内向けのY34の開発と同時に企画されたのではなく、後出しジャンケンというか、急場凌ぎ的に開発が決まったモデルだったのではないかと思う。たとえばインパネひとつとってみても、日本仕様とはまったく異なる意匠だが、センターパネルはF50シーマのそれを流用したものだし、ホイールだってシーマの18インチだ。ちなみにシャシーはY34と共通だが、リヤのマルチリンクはアームやらショックアブソーバーの配置が変更されていて、どちらかと言えばZ33のそれに近いレイアウトになっている。

「ちょっとパワー(340馬力)的にY34のままじゃ不安だから、Z33のアシにしとこうか」。そんな場当たり的なモディファイが街のチューンドカー屋さんのようで、妙に嬉しい。

 一方で、不思議と後付け感がないのがスタイリングで、5マイルバンパーの装着で全長が14センチほど伸びて5mに到達しているのに、オーナー目線という多分に贔屓目線であるものの、日本のY34よりも伸びやかでカッコいいと思う。18インチのホイールも日本のグランツーリスモものそれとよく似た意匠だが、1インチ大きいのでスポーティだ(ちなみにこのホイール自体は日本のF50シーマの300ツーリングと同じだ)。サッシュレスの4ドアHTという非常に日本的なフォーマットのパッケージングを北米風味にアレンジした違和感が何ともたまらない。

 ちなみに、Y34の基礎デザインはポルシェデザインの手によるもので、日産側では日本特有の“ゴルフバックが横置きで入らないじゃないか問題”に対処して、リヤの絞り込みを多少緩くした程度なんだとか。基本的に日本専売車なのに、どうしてポルシェデザインに依頼したのか、結構謎ではあるが……。

 そして本題がV8である。正直、これまでOHVの大排気量V6に慣れ親しんだ身としては肩透かしを食らった感はある。なんせ、下からモリモリ来るトルク感が希薄で、それなりの加速を試みようと思うと、それなりにエンジンの回転数が必要となるからだ。1990年代初頭に、キャデラックのノーススターV8に初めて乗ったときに、“スムースだけどなんか違う”と少々の不満を覚えたことを思い出した。

 かといって高速を100km/hで流してるときでも、エンジンの回転数は2000rpmは切らず、わかりやすく言えばオーバードライブをカットして走っているような乗り味。6速化してもう少しファイナルが高ければ、と今でも思う。静粛性は抜群で、遠くの方で「ルルルルルゥ~」とV8サウンドが透過してくるのは心地よい。高い自動車税と、なかなかにして大食い(アベレージ5-7km/リッター)なことの対価として考えれば、満足度50%程度かと。

 脚はやや硬めだが、緩めのボディ(とくに上屋)とのバランスはますまずで不快感もなくしっかりと動いでくれる感じ。僕的にはドイツのハイパフォーマンスサルーンのような緻密な息苦しさを感じないので、とても気に入っている。エンジンの重さのせいではないとは思うが、ステアリングは全域で重い。個体差かも知れないが比較対象もないので抽象的で恐縮だが、バックで駐車する際も片手でステアリングをクルクルは不可能で、両手での操作が必須だ。

 とここまでが、一応自動車雑誌に携わってきた人間としての客観的分析。正直、優等生という印象はまったくなく、ひと様に「いいクルマですよ! アナタも是非」なんてことを口が裂けても言えない。でもいかにもドメスティックなY34を左ハンドルとビッグバンパー&サイドマーカー点灯で走らせる満足度は100%に跳ね上がる。

 ちなみに、北米でもあまり売れなかったのはもしかしてプロモーション方法がまずかったのでは? と思ったりもするのだが、そのあたりYoutubeに動画があるのでご覧いただきたい。

 ちなみに30秒の短編では「THE MUSCLE CAR WITH BRAINS(意訳して頭脳派マッスルカー?)などと締めくくって、ハリウッド映画でお馴染みのロケ地やアメリカン・マッスルカーなどとの共演で“親アメリカン”を演出しているが……。

■30秒CM

https://youtu.be/_g3IE6kgbLc

https://youtu.be/WvTbk7XyYaY

 とにもかくにもいただけないのが、6分半にわたるショートムービーだ。

■6分半のショートムービー

https://youtu.be/vkuRMQOTbRw

 レクサスGSとのガチンコ対決ならまだしも、なぜか敵はおそらくM45のメインターゲット層であるアメリカの50-60代のカーガイが愛してやまない、アメリカン・マッスルカーのアイコンたち。1968年型カマロと1969年型ダッジ・コロネット・スーパービー。

 正直、長年古いアメリカ車に乗ってきた自分としては腹立たしい以外の何物でもない映像だ。全然嬉しくない! 直線では加速番長の古いアメリカン・マッスルとタメを張りつつ、コーナーリングで出し抜く……、クルマに詳しくない人が見ても、「そんなん当たり前だろ」と突っ込んでしまうだろう。ちなみ大スピンを喫するスーパービーは、個体によっては4輪ドラムで、リヤはリジッドアクスルにリーフスプリング、フロントはトーションバー式サスがデフォで小さなコーナーを曲がるようにできていない。この映像で、アメリカのウン万というオールド・マッスルカーファンを敵にまわしたも同然。たぶんマッスルカーのイベントにM45を乗り付けたなら石でも投げられるんじゃないだろうか……。

 日本でも古いクルマをCMに引っ張り出して、それをアナログの塊みたいに扱ってさんざん旧車ファンを怒らせていた某メーカーだけど、その前例としてすでに20年前のアメリカでやらかしていたわけで。短編だけだったら、「悪くないね~」と思ってもらえたかもしれないのに。まったくトホホのホである。


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