狭角V6を実用化していたフォルクスワーゲンだから実現できた
では、W型エンジンに可能性を見出せなかったかといえば、決してそんなことはなかったのである。VWは、実用化していた15度バンクのV6を2基つないでW12を実現したのである。これが一般的な60度V6を使うメーカーならW型の発想は生まれなかったかもしれないが、VWは狭角バンク(=エンジン幅が狭い)、バンク角15度のV6をものにしていたため、2基連結する手法を無理なく思いついたものだと推測できる。
狭角V6のエンジン長は直列4気筒かそれ以下。うまく作れば直列3.5気筒程度の長さに収めることができる。これを2基つないで12気筒とすれば、非常にコンパクト(前後長)な12気筒が出来上がることになる。直列6気筒を2基つないだV12のエンジン全長は、どううまく作っても直列6.5気筒分の長さになってしまい、W型は、この点で大きな優位性を持つ。
W型エンジンは、エンジンベイの幅が限られた小型車では無理だが、車両全幅1800mmを優に超すような大型車では、なんとか収めることができるサイズである。その上で、エンジン全長は長くて直列4気筒と同等。直列4気筒エンジンの排気量を2000cc(1気筒あたり500cc)とした場合、W12気筒では同じエンジン全長で6000ccのエンジンを成立させることが可能なのである。
W型エンジンのメリットは、全長を短く収めながら大排気量を得られる点に尽きる。同じ12気筒同士で比べれば、V12よりはるかに短いエンジン長となり、車両搭載上の重量バランスの問題や前後スペース確保の点で大きな優位性を持つことになる。ただし、60度V12には、完全といわれる滑らかな回転バランスのよさがあることも事実である。
W型エンジンは、エンジン単体の性能、性格ではなく、搭載する車両のコンセプトや性格とのマッチングを考慮すべきで、そのコンパクト性(前後長)と大排気量が要求されるパッケージングで真価を発揮するシリンダーレイアウトということができるだろう。