この記事をまとめると
■ホンダの新型SUVとなるZR-Vに中谷明彦さんが試乗した
■ガソリンFFとe:HEVのFF、e:HEVのAWDの3台を乗り比べた
■SUVらしからぬ軽快なハンドリングに加え、e:HEVは電動モーターによるトルクフルな走りを体験
ヴェゼルとCR-Vの間のちょうどいいサイズのSUV
ホンダが新しいコンパクトクラスSUVとしてZR-Vを誕生させた。ホンダには、すでにコンパクトクラスのヴェゼルやミドルクラスのCR-VがSUVとしてラインアップされているが、今回のZR-Vは、その中間をいくちょうど良いサイズ感のモデルとしている。
フィットベースのヴェセルでは小さすぎ、アコードベースのCR-Vでは大きすぎるといった、ちょうどシビックベースの大きさを求めるユーザーニーズに呼応して、新型シビックの登場に合わせて派生展開されたといえるだろう。
ZR-Vに採用されたパワートレインは、新型シビックと同様の1.5リッター直列4気筒ガソリンターボモデルと、ホンダが提唱するハイブリッドシステムであるe:HEVの2種類が用意されている。また、シビックには設定のないAWD(4輪駆動)がそれぞれにラインアップされているのもSUVとして着目すべきポイントだ。
まず、1.5リッターガソリンターボAWDに試乗する。デザイン的にはどのモデルも外観的な差別化はされてなく識別するのが難しい。18インチホイールの塗色やオーナメントバッジの差で区別するしかないようだ。
装備面ではXとZのふたつのグレードラインアップで差別化が図られている。試乗車はXで、標準仕様のものとなっている。とはいえ大型センターカラーディスプレイや、カラー液晶メーターなど、基本的なアイテムは上級グレードのZと変わりない。
まず、ボディ外観のデザイン的印象はクロスオーバーSUVといえるものだ。スポーティでポルシェ・マカンのようなCピラーまわりのボリューミーなデザインが個性的だ。ラジエーターグリルはイタリアのマセラティ車を彷彿とさせるような縦型スリットが組み込まれた開口部が特徴的で、やや高い位置のボンネットとなだらかなルーフ曲面で構成されている。
室内に乗り込むと、内装は合成レザーによる作り込みが豪華な印象で、高級感を醸し出している。ドライバーズポジションのほぼ正面にステアリングが配置され、テレスコピック機能を備えたステアリングアジャスト機能で理想的なポジションが得られる。センターコンソールの位置はやや高めで、ガソリンターボエンジンの場合はそこにシフトレバーが備わる。
スタートストップボタンでエンジンをスタートし走り始める。1.5リッターながらターボ過給によりドライバビリティが優れていることはシビックでも実証されているが、SUVとなって重量が増し重心も高くなったことで力不足も懸念されるところだが、一般路を想定した走行パターンでは何らパワー不足を感じることもなく扱いやすい。
今回は試乗コースが「群馬サイクルスポーツセンター」というクローズドコースであったこともあり、少し車速域を上げコーナーを責め込むような走りも試みた。AWDの制御はリヤデフの前に配置される電子制御カップリング湿式クラッチの作動により行われる。一般的にFFベースのAWD車は前2輪駆動で通常走行するパターンが多いが、ZR-Vの場合は常時後輪にも駆動力を与え、AWDとしての安定性を常に発揮できるようなセッティングが施されている。
また、アクセルを踏み込んで加速するようなシーンでは後輪荷重が増加し、よりクラッチを強く締結することで後輪への駆動力配分を高め、操舵応答性を確保できるように前輪駆動力をあまり高めないというような配慮がされている。
SUVでありながらプッシュアンダーを抑え込みつつ軽快なハンドリングを実現し、操縦安定性を高めようという見地から到達したセットアップだといえる。実際、ハンドリングは極めて安定していて多少攻め込んでも電子制御の介入はほとんど感じないほど。
デュアルピニオン化された電動アシストパワーステアリングは剛性感が極めて高く、また操舵フィールにも優れていて微操舵応答性も優れている。切りまわし応答性も良く、大舵角の転舵時にも剛性感が損なわれずにしっかりとした操舵フィールが確保されているのはありがたいところだ。
さすがによりハイスピードでスポーツカーのように走らせようとすれば絶対的なパワー不足感は否めないが、現代においてはそのような走行シーンを日常生活面で迎えるシーンはほとんどない。また、標高の高い雪国や坂道の多い場面ではターボの過給トルクが十分に発揮されるので、やはり実用的な面での動力性能不足は起こり得ないだろう。57リットルの燃料タンクが確保され、航続距離が長いこともSUVという車両特性からすればありがたいことだ。