ホイールベースを延長したロングボディ! 屋根のないオープンカー! クルマの体幹「ボディ剛性」は問題ないのか? (2/2ページ)

Sクラスには高級車らしい素材選択が行われている

 実際のところは、たとえば、ある車両において新車リリース当時にはベストを目指して設計された車両剛性も、4〜5年を経て次期モデルで同じ作業を行うと、生産技術や材料工学の進歩により、確実に剛性の引き上げが可能な状態となっている。

 現行ベンツのSクラスに目を向けると、モノコックボディの構成は、高張力鋼板+超高張力鋼板+アルミ材となっている。大柄(=重量級)になるボディに対し、設計側は軽量、高強度、高剛性で仕上げることを目標とするため、構成素材には軽量、高強度なものが選ばれ、できるだけ軽く、かつ強靱な車体作りが目指される。こうした意味では、超高張力鋼板やアルミ材を多用したベンツSクラスの車体設計は、いかにも高級車らしい贅沢な素材選択が行われていると見ることができる。

 ちなみに、高張力&超高張力鋼板の定義は、一般構造用圧延鋼材と比べて引っ張り強度が高く、同じ強度値を得る場合、薄く(=軽く)仕上げることができる。ちなみに、一般的には引っ張り強度1000MPa以下を高張力鋼、1300MPa以上を超高張力鋼と呼んでいるが、強度を基準にした明確な名称の区分はなく、鋼板メーカーがそれぞれ適切と思われる強度の鋼に対して、高張力や超高張力の呼び名を与えている。

 物理的な素材強度が明らかで、コンピュータシミュレーション技術(ソフトウェア)が確立された現在は、目標として設定した車体剛性(捻れ、曲げ)は、100%に限りなく近い確率で達成が可能な状況である。こうした意味でベンツSクラスを見れば、ロングホイールベース仕様の車体設計は、標準仕様車の手直しではなく、ホイールベース値を標準車の3105mmから110mm延長した3215mmが入力され、基本設計が行われている。

 考え方として、ロングボディ仕様車は、標準ボディ仕様車のホイールベース3105mmを延長した車両ではなく、最初からホイールベース値を3215mmで設計した車両と理解すべきである。車両の名称、スタイリング、標準モデルの存在などから、ロングボディ仕様車は標準ボディの延長版と受け取りがちだが、車体を切ってパネルを継ぎ足し、物理的な作業で車体を延長するコーチビルダーが手掛けたストレッチリムジンとは、根本から異なる車両設計、構造であることに着目しなくてはならない。


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