ハッチバックとワゴンはボディ剛性が低下しがち
HBボディ車はどうだろうか? HB車の多くはエンジンとキャビンのふたつに分け2ボックス車と呼ばれる。キャビン後席後ろを荷室スペースとして確保し、リヤハッチバックドアとして荷室の実用性を向上させている。
2ボックスは、古くはイギリスのミニクーパーが採用し、HBとしてはVWが初代ゴルフに採用して「ホットハッチ」と呼ばれるカテゴリーを確立した。国産車もカローラやホンダ・シビック、マツダ・ファミリアなど2〜4ドアのHBを多くラインアップし一世を風靡したものだ。
HB車の場合、リヤのバルクヘッドが省かれ、またHBゲートで車体後部が大きく開口するため、ボディ剛性が圧倒的に低下する。だが、セダンに比べて軽く作れることから運動性能が高まり、走りの質感は落ちるが速さが売り、というキャラクター付けが可能だった。しかし、軽いとはいえセダンに対して前後重量配分は相当悪く、ハンドリング的に満足できるモデルは多くなかった。
ワゴンボディはというと、もともとは商用車として重宝されたバンを乗用にアップグレードしたのが始まりだったことから、走りのよさを謳われることはほとんどなかっただろう。基本的にはエンジンルームとキャビン+荷室の2ボックス構造であり、窓やリヤゲートなど開口部が多く、ボディ剛性が低くなってしまう。また、荷室容量を拡大するためルーフが車体後部まで延長されていて、重くて重心も高くなってしまう。
走りに関しては、有効な要素がなさそうなワゴンボディなのだが、じつはハンドリング的にもっとも優れたものとして完成させられた例がいくつかある。たとえば三菱ランサー・エボリューションワゴン(エボワゴン)だ。エボワゴンはランエボVIII(CT9)の世代で追加されたのだが、そのハンドリングは通常のランエボVIIIセダンを上まわっていた。
セダンは電子制御のACD(アクティブセンターデファレンシャル)やAYC(アクティブヨーコントロール)を駆使し、4WDながらオンロードを速く走れるスポーツモデルとして仕上げていた。しかし、エボワゴンはAYCを与えられなくても自由自在のハンドリングを示していたのだ。いまでもエボワゴンを上まわるハンドリングの4WDは存在しないといっても過言ではないほど、その走りは秀逸だった。
車体剛性不足もリヤサスペンション取り付け点剛性を高めることで確保。じつは荷室を横切る位置にストラットバーを取り付ける策も講じられたが、それを外してもハンドリングの良さは影響を受けなかった。分析結果として、ワゴン化することで前後重量配分が最適化でき、リヤサスペンションが高い接地性を確保できたことがもっとも好影響していた。そのことから、後に続くランエボXでは、エボワゴン並みの前後重量配分を実現すべくデザインされ、重いバッテリーをリヤトランク内アクスル上に配置するなどの策が講じられたが、それでもエボワゴンの前後重量配分には及ばなかった。
フロントエンジン横置きFFベース車では前後重量配分が悪いので、ワゴンボディを乗せることでハンドリングも改善されるという事象が起こることが認知されたのだ。
近年でもメルセデスAMG A 45(35)には、セダン、HB、シューティングブレークの3タイプのボディをラインアップしていて、速さのHBをシューティングブレークがハンドリングと空力で上まわる走りの好特性を見せているのだ。