暇つぶしで購入したフェラーリはバカラのための資金になった
獄中からの通信手段は手紙だけ。手紙によってフェラーリの正規ディーラー「コーンズ」と通信し、スペチアーレを含む多くのフェラーリを購入。
それを渋谷のセルリアンタワー地下駐車場(1台あたり月8万円)に保管していたという。合計台数は20台近くに達したそうだ。
井川氏の新刊「熔ける 再び」によると、フェラーリの通信販売は、獄中での「ちょうどいい暇つぶし」だったという。
氏は出所後、張り切ってフェラーリで富士スピードウェイを走ったものの、2~3周で「もういいや」と飽きてしまい、結局、保有していたフェラーリをすべて売却。バカラの種銭にした。
私はフェラーリ崇拝者だが、その心理は推測できる。サーキット走行はほかのスポーツと同じで、うまくなりたい、速くなりたいという気持ちがないと面白くない。また、一般人は、サーキットを走るだけで「クルマが壊れるかも」とか「ぶつかったら大変だ」といった危機感覚が沸く。フェラーリならなおさらだ。それを乗り越えてタイムを削るのは、大きな冒険である。
私は自分のフェラーリでサーキットを走るたびに、強い覚悟を持って臨んできた。それは、一般大衆である私にとって、これ以上ない強い刺激だった。
しかし、御曹司には、そんなものはないだろう。
井川氏はもともとクルマ好きで、東大生時代はBMW635iを乗りまわしており、その後もフェラーリ・デイトナを所有するなどしていたが、運転手付きの生活が長く、スポーツドライビングの情熱は失っていたようだ。
本当にクルマの運転が好きでない限り、高価なフェラーリでサーキットを走ったところで刺激はないし、意味すら感じられないことは容易に想像できる。氏にとっては、バクチ以上に刺激的なイベントはなかったのだ。