スポーツカーの象徴として残されているMT
特定の一社だけでなく国産メーカー各社が、手頃というには語弊があるかもしれないが、手が届く価格帯にMTのスポーツモデルを用意しているのは事実だ。その背景には、何があるのだろうか。
結論からいえば、市場が求めているからにほかならない。
ひと昔前は商用車といえばローコストで効率にも有利なMTという印象もあったが、いまや商用車の多くが2ペダル車になっている。商用1BOXの象徴的なモデルであるトヨタ・ハイエースの現行ラインアップでは、全グレードが6速AT仕様となっており、MTの設定は消滅しているほどなのだ。
その理由も、単純にユーザーがMTよりもATを求めるからといえる。ATと比べるとMTは渋滞での疲労が大きいのは否めない。また、MTは運転手のスキルによって燃費がよくも悪くも変わりやすいという傾向にあるのも、商用車でもATが増えている理由のひとつだ。
このように、商用車ではユーザーニーズによってATが主流となっている。これは乗用車の98%がATといわれるのと、ほぼ同じ理由といえるだろう。つまり、国産メーカーの多くは、ATが主流となることで燃費がよくなっている。
実際、GRスープラでみると、同じ3リッターターボエンジンで8速AT車の燃費は12.1km/Lなのに対して、6速MT車は11.0km/Lと一割程度悪化している。その背景にはWLTC測定モードの影響があることは否めないが、けっしてMTのほうが高効率というわけではない。MTはATより軽くて伝達効率に優れているとは言い切れない。
つまり、スポーツモデルにおいてMTが求められるのは、燃費や効率という点ではなく、「せっかくスポーツカーに乗るのであればMTに乗ってみたい」という趣味的マインドが強いといえるだろう。逆説的になるが、新車販売の98%程度がATになっているからこそ、MTをあえて選ぶことが趣味的ファクターとして認識されるともいえる。
MTを選ぶということは、自らの手でシフトレバーを動かし、足でクラッチペダルを操作する必要がある。そうした行為そのものがスポーツドライビングを体現しているという見方もあるだろう。手足をフルに活用するMTは、ドライビングという行為にスポーツ性を見出すにはわかりやすいメカニズムでもある。
販売の主力はATだとしても、MTを用意していることがスポーツカーのブランディングになるともいえる。当初はATだけの設定だったGRスープラがMTを追加設定したのには、ユーザーの声に応えたというのもあるだろうが、MTを設定していることがブランディングを高めることを期待しているという部分もあるだろう。