この記事をまとめると
■いまスーパー耐久のST-Qクラスに自動車メーカーが参入している
■2022年度はトヨタ以外のメーカーも参加し、各々の技術を開発している
■自動車の未来を間近で見ることができる
スーパー耐久のST-Qクラスが熱い!
プロドライバーに加えて、数多くのジェントルマンドライバーが参戦するほか、マシンも改造範囲が厳しく制限されたことからスーパー耐久は、前身となるN1耐久の時代から“偉大なる草レース”と表現されることも多かった。
しかし、現在はトヨタを筆頭に日産、スバル、マツダなど自動車メーカーが相次いで参入。その転機となったのが、2021年にST-Qクラスが新設されたことだった。
ST-Qクラスは「他のクラスに該当しない、STOが認めた車両」を対象にしたクラスで、これによりトヨタと連携して活動するORC ROOKIE RACINGが2021年から水素エンジンを搭載した32号車「GR Corolla H2 concept」を投入するほか、スバルを主体としたTeam SDA Engineeringが61号車「BRZ CNF Concept」、マツダを主体としたMAZDA SPILIT RACINGがバイオディーゼル燃料を使用した55号車「MAZDA2 Bio concept」で参戦したことは記憶に新しい。
2022年に入るとORC ROOKIE RACINGが新たにカーボンニュートラル燃料を使用した28号車「GR86 CNF Concept」を投入。さらに第2戦の富士24時間レースには日産が新型Zをベースに開発した2台の「Nissan Z Racing Concept」を投入しており、NISMOがカーボンニュートラル燃料を使用した230号車、Max Racingがガソリンを使用した244号車を投入していた。
残念ながらカーボンニュートラル燃料を使用したNISMOの230号車は富士24時間レースのみのスポット参戦だったが、Max Racingの244号車は参戦を継続。
さらにブレーキメーカー、ENDLESSのワークスチーム、ENDLESS SPORTがメルセデスAMG GT4に自社開発のブレーキユニットをインストールした3号車「ENDLESS AMG GT4」で参戦するなど、2年目を迎えたST-Qクラスは活況を迎えている。
かつてニュルブルクリンク24時間レースには、レクサスLFAやフォルクスワーゲン・シロッコなどの発売前の開発モデルが参戦したほか、ポルシェ911 GT3 R ハイブリッドやシロッコの天然ガス仕様車、シロッコGT24-CNGといった次世代モデルが参戦するなど“走る実験室”もしくは“走るモーターショー”として注目を集めてきたが、スーパー耐久のST-Qクラスも“走る実験室”になりつつある。
このST-QクラスについてTeam SDA Engineeringのチーム監督を務めるスバルの研究実験センター長、本井雅人氏は「お客様の選択肢を増やすため、スーパー耐久のST-Qクラスへの参戦しながらカーボンニュートラル燃料に対応するための開発を行っています。そうすることで、スバル独自の水平対向エンジンを残していくことにも繋がると思います」と語る。
さらに同チームでチーフエンジニアを務めるスバルのボディ設計部の竹内源樹氏は「JIS規格に合うような燃料を作って頂いたので、エンジンに関しては、それを運用しながら、量産に近い状態で課題の洗い出しを行っています。車体に関しては開幕戦の鈴鹿と第2戦の富士は足まわりを含めて誰でも乗れるような方向にセットアップしていきましたが、第3戦のSUGOと第4戦のオートポリスに対しては速さを求めた場合、何をすべきかを試しています。第3戦のSUGOからはエアコンをつけたり、ボンネットもカーボンにするなど、ラウンドごとにいろんなトライを行っています」と進化の過程について説明した。
前述の本井氏は「今までスバルのモータースポーツ活動は外注することが多かったんですけど、このスーパー耐久に関しては開発の業務をやっているエンジニアがこの活動を行なっているので人が育つと思います。レースの場合は次の日程が決まっていて、想定外のこともそれまでにクリアしなければいけない。普段の開発とは時間軸がまったく違うので、この経験はエンジニアに力がつく。それにレースは勝ち・負けがあるんですけど、普段の開発の現場では負けた悔しさを味わうことができないので、モチベーション向上にも繋がっています」とのことだ。
一方、MAZDA SPILIT RACINGの活動についてマツダのカスタマーサービス本部の上村昭一氏は「ST-Qクラスでは規則的にいろんなチャレンジができるので、バイオディーゼル燃料に対するエンジンの制御のやり方などを勉強しながら、その他の部分でも各ラウンドで新しいチャレンジをしています。富士では新型トランスミッションの調子がいまいちだったんですけど、解析して信頼性を上げてきました。それに合わせて富士から投入した1.8リッターのエンジンも制御のチューニングで出力を上げました。富士と比べると10馬力〜20馬力ぐらいはアップしています。バイオディーゼル燃料でカーボンニュートラルの対策をやりながら、レーシングカーとしての魅力も担保していきたいと思っています」とのことで、MAZDA2 Bio conceptも着実に進化を重ねているようだ。
またENDLESS SPORTの3号車、ENDLESS AMG GT4のST-Qクラスへの参戦についてENDLESSの会長、花里功氏は「ST-Zクラスでは車両規定でブレーキシステムの変更ができませんが、ST-Qクラスであれば自社で開発したブレーキシステムを自社チームでテストできますからね。開発の舞台にもなっていますし、PRの舞台にもなっています」とその意義を語る。
もちろん、ORC ROOKIE RACINGのGR86 CNF Conceptもエンジンの出力向上を果たしたほか、トランスミッションやブレーキの強化、ボディ剛性を高めるなど確実に進化。GR Corolla H2 conceptも水素エンジンの燃焼を制御することで航続距離が14%もアップするなど著しい進化を果たしているようだ。
これに加えてMax Racingが投入する244号車、Nissan Z Racing Conceptもエアロダイナミックスを筆頭にさまざまな進化が窺える。