「よかったなぁ」と思い出せるようなクルマが誕生するのだろうか
しかし、過去には“セミAT”というものが存在していた。筆者が運転免許を取得したのと同時期に高校時代の友人も運転免許を取得した。そのころ友人の家は3代目アコードセダン(リトラクタブルヘッドライトのモデル)に乗っていた。
ある日その友人がゴールドの初代アコードハッチバックでやってきた。自宅のアコードを点検に出している間の“代車”らしいのだが、「結構面白いからドライブに行こう」と誘いに来たのだ。何が面白いのかなあと思っていたら、そのアコードはホンダマチック仕様であったのだ。そのアコードに搭載されていたホンダマチックはセミオートタイプのもので「☆(スター)レンジ」のついているものであった。
何も知らされずにスターレンジに入れて走り出そうとしても“ウーン”という感じでなかなか前へ進まない。すると友人が「ローレンジにして発進して、その後スターレンジにシフトするんだよ」と教えてくれた。当時マイカーはMT車だったので、フルオートマチック車を運転することすら珍しいのに、スターレンジなるものを持つセミオートタイプのホンダマチックはまさにMTとフルATの中間的操作で面白かったのをいまも覚えている。
その後自動車メディア業界に飛び込んでからしばらくして、初代ルノートゥインゴに試乗する機会があった。トランスミッションは“オートクラッチ”などとも呼ばれる、2ペダルの5速MTであった。試乗をはじめてからしばらくは、変速するたびに存在しないクラッチを踏もうとして、思いっきりフロアに足をぶつけていたが、慣れてくるとこれもなかなか面白いものであったと感じたことをいまも記憶している。
日の丸(国産)初のATとされる“トヨグライド”も2速のセミATとなっている。前述したように、筆者が運転免許を取得した80年代後半から日本国内における日本車も乗用車については本格的な自動変速機時代を迎えることになる。筆者としてはそれまでは、ほぼすべての乗用車はMTばかりかと思っていたのだが、ある日仕事で60年代後半あたりのころを調べてみると、セミかフルタイプかは別として、オートマチックが意外なほど普及していたり、オートマチックの存在をアピールするモデルが多いことがわかって驚いたことがある。
これから世界的に車両電動化が進んでいくとされている。そのなかで、いままで筆者が述べてきたような、些細なことではあるが「面白かったなあ」と思い出が残るようなものがクルマに残るのか、若い人が意外なほどMTに興味があるのがわかって、そんなことをふと考えてしまった。