電動化が進む上で自主規制を積極的に見直す必要はないといえる
ちなみに、軽自動車の排気量が0.66リッター以下となったのは1990年のことで、その際にボディサイズが全長のみ3.30mへと伸ばされている。初代アルトワークスの誕生から、この規格改正までもう少し時間があれば64馬力規制を見直すという動きにもなり得たのかもしれない。
しかし、ただでさえ排気量アップによって軽自動車のメリットである優遇税制に対しての批判(増税)が盛り上がっていた時期に、最高出力の自主規制を撤廃しようというのは藪蛇になり兼ねない。業界的には無用な刺激を避けることもあって、排気量がアップしても最高出力の自主規制を続けたというのが本音だろう。
結果として1998年の規格改正によってボディサイズを拡大した際にもエンジン排気量は手つかずであったし、排気量が変わらないのだから64馬力規制も維持された。それが電動化の進んだ現在まで続いているといったところだ。
もし自主規制を撤廃するチャンスがあるとすれば、軽自動車税が7200円から10800円に増税された2016年だったが、軽自動車の主役がスポーツモデルだった20世紀ならまだしも、後席スライドドアのスーパーハイトワゴンが主流の21世紀においては64馬力規制を撤廃するメリットは、さほどユーザーベネフィットとはならないだろうし、メーカーにもメリットは少ない。
仮に64馬力規制がなくなったとすれば、いくら燃費性能が重視される時代だとしても、結果的にメーカー間では馬力競争をすることになるだろう。グローバルな商品開発が求められる時代に、シュリンク傾向にある日本市場専用モデルの開発に、きつい言い方をすれば無駄なリソースを割くのは軽自動車を開発している全メーカーが避けたいはずだ。
こうしたマインドは、軽自動車のエンジンは0.66リッター以下にするという規格を改正する必要性を感じないというメーカーのコンセンサスにもつながっているといえる。一部のモータージャーナリストなどは軽自動車の排気量を増やすことで、もっと熱効率のいいエンジンにできると主張しているが、電動化時代において軽自動車用のエンジンを新開発するというのも各メーカーとしては避けたいところだろう。
日産、三菱の軽EVの登場に続くように、スズキとダイハツは軽商用EVを2023年度にローンチすることを発表したばかりだ。さらにホンダも2024年前半には100万円台の軽商用EVを発売するという計画を発表している。
このように軽自動車のフル電動化が進んでいくのが既定路線である限り、あえてエンジン排気量の拡大や64馬力の自主規制を積極的に見直す必要はないといえる。結果として64馬力規制はいつまでも残り続けるのではないだろうか。