名機を気軽に楽しめる快速SUVがある
そんな4G63・DOHCターボエンジンは、ランサーエボリューション専用ではなかった。折に触れて、三菱は4G63の水平展開を試みていた。国産最強2リッターエンジンの価値を最大限に利用しようとしていたのだ。
そうした4G63搭載モデルの中にSUVがあった。それが2002年6月に誕生したエアトレック・ターボRである。エアトレック自体は2001年6月に誕生したクロスオーバーSUVで、現在でいうアウトランダーのルーツとなったモデルだ。
エアトレック・ターボRのトランスミッションは、シーケンシャル操作でマニュアル変速できる5速AT、駆動方式はビスカスLSD付きセンターデフ方式のフルタイム4WDとなっていた。
そのエンジンスペックは以下のとおり。
最高出力:177kW(240馬力)/5500rpm
最大トルク:343Nm(35.0kg-m)/2500-4000rpm
この数値からは4G63のチャームポイントであるフラットトルクを、SUVというキャラクターに合わせて伸ばしていることが見て取れる。また、最高出力は抑え気味になっているように見えるが、これはターボチャージャーのノズル径を絞って、レスポンス重視のセッティングとしているため。ランサーエボリューションVIIと同じエアクリーナーを使っていることからもわかるように、けっしてパワーダウン版を用意したわけではなく、SUVに適した4G63にアップデートした結果といえる。
そんなエアトレック・ターボRはいまでも中古車市場で見つけることができる。そもそもレア車といえるので、それほど多くが流通しているわけではないが、車両本体価格が70万円前後となっているのは、新車価格が約230万円だったことを考えると妥当であるし、4G63ターボを載せているという中身を考えるとお買い得にも思えてくる。
もっとも、SUVにランエボのエンジンを載せたと聞くと、シャシー性能が追いつかないクルマに仕上がっているのではないか、という疑問も浮かんでくるかもしれない。じつは、筆者は2002年にエアトレック・ターボRが登場した際のメディア向け試乗会に参加して、いまはなき某誌に試乗記を寄稿したことがある。
その原稿からエアトレック・ターボRの生々しい印象を伝える部分を紹介しよう。
アクセルを踏み込むと3500rpmからブーストが正圧領域に入り、モリモリとトルクが出てくる。ランエボよりも小さいタービンを採用したことでピークパワーこそ劣っているが、ブーストのかかりはじめの領域では、エアトレックに分があるといっていい。たとえば高速での追い越し加速ならばランエボをわずかに凌ぐだろう。
ボディはターボエンジンの搭載にあわせて全車的に剛性アップが計られているというし、ブレーキもフロントに2ポットキャリパー(競技ベースのランエボRSと同じもの)を採用するほど。峠を攻めるキャラクターではないが、ガンガン走ることは許容してくれるレベルだ。
高速道路を走るなら、ランエボもエアトレックも変わらない。むしろタイヤやサスペンションなど足まわりのちがいでエアトレックのほうが乗り心地に優れ、快適なくらいだ。さらにいえば燃料タンク容量はランエボが48リットルなのに対して、エアトレックは60リットルもある。これもアドバンテージだ。
いかがだろうか。
たしかに当時のランエボには電子制御4WDが採用され、ギュンギュンに曲がる4WDになっていたので、駆動系を含めて考えると走行性能には明らかに差はあったが、エアトレックにしても4G63の搭載にあたって、ボディやシャーシはそれなりに引き締められていたので、パワフルなエンジンに翻弄されるようなことはなかったと記憶している。
20年近く前のクルマではあるが、SUVがメインストリームとなっている今だからこそ、三菱の先見性も含めて、エアトレック・ターボRに最注目してみるにもおもしろい。