ブッチギリの速さを手に入れた本気モデルがアツすぎる
また、ネガをつぶすというポイントではCLK63 AMG ブラックシリーズが好例で、507馬力ものパワーを路面に伝えるためにサスペンションアームの延長が施されています。左右で93mmものオーバーフェンダーが備えられたのはこのためで、決してタイヤサイズ拡大のためだけでないところがAMGらしい、というかDTMの方程式に則っているかと。
もちろん、ESPなるドライバーサポートが働けば、500馬力オーバーでもそれなりに乗れないことはありませんが、サーキット走ろうなんてオーナーがドライバーサポートで出したタイムに喜ぶかどうか。少なくとも、アウフレヒトは良しとしないことでしょう。そういう意味ではC63 AMG クーペ・ブラックシリーズも、ほぼほぼ似通ったマシンです。
そして、もっともアウフレヒトのスペシャルカーコンセプトを色濃く出したのがSL65 AMG ブラックシリーズではないでしょうか。アウフレヒト、というかAMGは当時マクラーレンSLRに対してかなりのライバル意識をもっていたようで「カタログモデル(乗用車)でブッちぎっちゃる!」と目の色を変えたこと想像に難くありません。
カブリオレ機能を排し、各所をカーボンパネルなどで徹底的な軽量化を図り(マイナス250kg)、またエンジンの組み上げも前述の通り「手組み」、サーキット直伝のエンジン&タービン制御は確かにブラックシリーズのコンセプトどおり、F1と一緒に走れるクルマに仕上がったのです。
もっとも、SLS ブラックシリーズにはそれほどの鬼気は感じられません。やはり、粗雑なトラックかのようなボディコンストラクションにAMGはさほど魅力を感じなかったのでしょう。素人が見ても「これでメルセデス製なの?」ってくらい仕上げがチープで、なるほどダイムラーもシュタイア社(SLSや旧Gクラスのボディコンストラクター)を手放すわけです。
そして、先ごろ生産終了がアナウンスされたAMG GTブラックシリーズこそ白眉を飾るというか、もはやブラックを通り越してバーミリオンシリーズと呼んで差し支えないマシンにほかなりません。注目すべきはやはりエンジンで、ついにというかようやくフラットプレーンクランクが採用され、パフォーマンスがレーシングカーのそれに等しくなったこと。言うまでもなく、V8エンジンでフラットプレーンクランクを採用しているのはフェラーリくらいのもので、彼らはF1仕込みのエンジンマネジメントでもって躾けているのです。AMGだってF1のノウハウはあったはずですが、どうやらメルセデス・ベンツから「フラットプレーン? ウチの客層に合わん」とNGが出されていたようです。
ですが、このエンジンとあわせて大幅な軽量化、各所の強化・補強でもってAMG GTブラックシリーズはFR 2WDながらニュルブルクリンク最速の座をゲット(大人げないポルシェによってすぐ抜かれましたけど)。アウフレヒトだけでなく、エンジンを組んだ職工さんは「メシウマ」だったこと間違いありません。
AMGといえば「プロジェクトONE」や「シグネチャーシリーズ」「エディションモデル」なんて商売っ気たっぷりなモデルが乱立していますが、ブラックシリーズだけは彼らが本気出したマシンと見るべきでしょう。
絶対的な金額としては高価かもしれませんが、製品としての値付けはきわめて順当、いや良心的だとすらいえるのではないでしょうか。