元オーナーが感じたクラウンらしさと不満点
というわけで、クラウンを知り尽くしているとはいえないが、かつてクラウン・オーナーだった筆者が、自分なりの視点から新型クラウンクロスオーバーを「クラウンと認めることができる仕上がりなのか」という視点でチェックすることにした。
ちなみに筆者が所有していたのは2005年式のクラウン・アスリート3.5。通称、ゼロクラウンと呼ばれた12代目クラウンの後期型、315馬力を発生する3.5リッターV6エンジンを搭載していたモデルだ。2005年秋に購入、2013年の春までの7年半をいっしょに過ごした。
じつは自身がクラウンを買う以前に、実父が3.0リッター直6エンジンの11代目クラウンに乗っていたこともあり、クラウンのイメージが大きく変わった時代をリアルタイムに肌で感じた経験がある。
当時を思い出すと、ゼロクラウンになり、世間的には大きくイメージを変えたと思われていたが、自分自身は「エンジンやスタイルが変わっても、クラウンはクラウンであって、クラウンなのだなぁ」など禅問答のような印象を受けたことを思い出す。
コクピットドリルを受けなくとも自然と運転できるポジションや各種操作系の配置は、クラウンを乗り継ぐことの意味も感じさせた。
その意味でいうと、新型クラウンクロスオーバーに座った瞬間には、やはりクラウンを感じることはできた。わかりやすいところでいうとステアリングホイールの中央にしっかりと王冠マークが鎮座しているのは、クラウンの記号として安心感がある。
エアコン操作パネルが噴き出し口の下に独立して置かれているのは、マイナーチェンジ後の先代クラウン(220系)に通じるものであり、このあたりもクラウンらしいバトンの受け渡しを感じさせる。
とはいえ、クラウンといえばトランクオープナーを運転側ドアのアームレスト部分に置くという伝統が受け継がれていないのは残念な点。ショーファードリブンではないので、ここに置く必要はないのかもしれないが、クラウンを名乗るのであればトランクオープナーの位置は死守して欲しかったと思う。とはいえ、新型クラウンではトランクリッドの開閉が電動になったのはうれしい進化だ。
また、シフト操作系についても、シフトの脇にドリンクホルダーを置くという伝統は守りつつ、ハイブリッド車らしいジョイスティックタイプとなっているのは、ちょっと気になる進化点。このあたりでクラウンの革新を示しているのかもしれないが、オーソドックスなシフトのほうがクラウンらしかったと感じた。ただし、アクセルペダルが床側にヒンジのあるオルガン式を守っているのはクラウンらしいと感じる部分ではある。
気になったのは後席スペースだ。フロントシート背面に立派なアシストグリップが用意される(最上級グレード限定のパッケージオプション)のはクラウンらしいところだが、残念ながらスペース的にはクラウンとして進化したという印象は受けない。
作り手としては数値で十分な広さを確保したと言いたいかもしれない。しかし、豊田章男社長が歴代クラウンに触れてきた経験をもとに、新型クラウンをまごうことなきクラウンであると評価するのであれば、つたない経験とはいえ元クラウン・オーナーである筆者の期待値からすると、新型クラウンクロスオーバーの後席はクラウンと呼ぶにはいまひとつというのが正直な感想だ。おそらく電動化を見据えたフラットフロアとシートヒップポイントの関係が、クラウンの伝統とは異なる印象を生んでいるのだと思う。
多くのファンが気にしているのは、FRプラットフォームを守ってきたクラウンが、エンジン横置きプラットフォームのハイブリッド電動4WDとなった点だろう。近年、電動4WDの制御技術というのは非常に進化しており、走りについてはクラウンのテイストを演出していることは否定できない。むしろ、モーター駆動を軸とした制御によって、クラウンらしさの進化版といえる走り味を期待したい。
とくに新型クラウンクロスオーバーはDRS(後輪操舵)を全車に標準装備している。DRSによる小まわり性能はハンドル切れ角の大きなFRとそん色ないというし、中速域でのキビキビ感や高速域でのスタビリティも実現しているという。このあたりのセッティングでもクラウンの世界観を実現しているのかどうかは気になるところだ。
やはり、動かしてみないと「間違いなくクラウンだ!」とは断言できない。とはいえ、ここまで触れてきたように、静的に確認できる領域では、たしかにクラウンらしさを感じられるのも事実。
はたして従来からの熱心なクラウンファンは、新型クラウンクロスオーバーをどのように評価するのだろうか。