自動車文化の発展にはゲームも欠かせないツールのひとつだ
ABCトリオが登場した時期、後に大きな波となる自動車文化が日本で生まれた。
それがドリフトブームだ。主に後輪駆動のクルマにより、後輪をスライドさせるドリフト走行は、低グリップなタイヤの時代においては限界域で走るためのテクニックのひとつだったが、1990年代には「魅せるドライビングテクニック」として独立していった。
これは革命だった。そもそもモータースポーツは速さを競うものだったが、ドリフトは表現力を競うものである。アイススケートでいうフィギュアスケートのようなもので、速さを競う世界とはまったく異なる価値観のモータースポーツが生まれたのだ。
そんなドリフト文化を象徴するモデルとして自動車世界遺産に推薦したいのが「シルエイティ」だ。ドリフトで使うモデルとして人気だった日産シルビア/180SXの兄弟車、180SXのボディにシルビアの顔を移植したシルエイティは、ドリフトシーンで目立つためにユーザーから生まれたムーブメントであり、まさにドリフト黎明期を象徴する存在だ。
※画像はミニカー
ところで、近年ではモータースポーツにおいてもeスポーツも盛り上がっている。日本生まれのeモータースポーツといえば、ポリフォニーデジタルによる「グランツーリスモ」シリーズということに異論はないだろう。
そうしたグランツーリスモが生み出したカルチャーのひとつにリアリティがある。いきなりレーシングカーに乗るのではなく、身近なクルマからステップアップしていくことを提案している。また、チューニングなどのカスタムや、各種のセッティングといった知識が求められるのもグランツーリスモの特徴だ。
そんなグランツーリスモ文化を象徴するのは「2010年式 ホンダ・フィットRS」ではないだろうか。グランツーリスモ6において半ば強制的に最初の愛車として購入させられる2代目フィットのスポーティグレードRSは、ある種のネットミームとなったこともあり、非常に印象深い。
なにより実車のフィットRSもスポーツドライビングを学ぶのに適した素性のいいFFホットハッチであることも見逃せない。そして2010年式フィットRSを自動車世界遺産として、実車をグッドコンディションで残しておくことは本当に大事だと思う。世界遺産として登録しなければ、実車での人気度を考えるとほとんど消滅しそうだからだ。
ここまで独断と偏見で自動車世界遺産候補をセレクトしてきたが、電動化時代を前提に残しておきたいと個人的に強く思っているモデルを最後に紹介したい。
それは「レクサスLFA」だ。トヨタがヤマハ発動機と共同開発したというV10エンジンには「天使の咆哮」といったキャッチフレーズもつけられるほどで、内燃機関というのは楽器になり得るということを証明する最高の国産車だと思う。
電動化=排気音がなくなってしまうわけで、エンジン車だからこそ味わえるエキゾーストノートが単なる騒音ではなく、愛でるだけの価値あるものであったことを、LFAを自動車世界遺産とすることで後世に残しておきたいと切に願うのだ。