この記事をまとめると
■「転がり抵抗」はタイヤの性能のなかでも重要なポイントのひとつ
■タイヤの「転がり抵抗」は夏は低く、冬には高くなる
■反対のイメージもあるが、その理由について解説する
気温によって夏のほうがゴムは変形しやすいが……
タイヤの性能說明で必ずと言っていいほど出てくるのが転がり抵抗だ。これはその名のとおり、転がる際の抵抗で、昨今は燃費が重視されることもあって、タイヤの性能のなかでも最重要ポイントのひとつだったりする。タイヤの場合、ゴムでできているため、たわみによる抵抗の発生は避けられない。鉄道の場合は金属の車輪とレールなので、転がり抵抗は究極的に低く、惰性でかなりの距離を走る。最近、電気自動車でコースティングと呼ばれる、惰性走行モードが増えているが、鉄道は結構な領域をコースティングモードで走っているということなる。
話は戻って、タイヤの場合、夏のほうが転がり抵抗が低く、冬のほうが高くなる。単純なイメージだと、暑いとゴムが柔らかくなって抵抗は大きそうだし、逆に寒くて硬くなると小さくなりそうだ。最初聞いたときはにわかに信じがたく、タイヤメーカーのテストドライバーに聞いたところ、「そうですね」とアッサリ言われて驚いた覚えがある。
転がり抵抗というのは単純にどれだけ転がりやすいか、もしくは転がりにくいか、ということではあるのだが、もっと細かく言うと転がる際の抵抗の大部分はゴムの変形によるエネルギーロス。ゴムは力を加えると変形して、力を加えるのをやめると元に戻ろうとするのは見てのとおりだが、その際に加えられた力がゴム内部の分子同士が擦れる際の摩擦によって熱に変換されてしまうことで、エネルギーをロスしてしまう。
たとえば、ゴムボールを自然に落とすと弾むが、元の高さまでは戻らない。これは、ゴムが地面に当たって変形したときにエネルギーを吸収してしまうからというのもある。重力も関係はするが、バネのように加えられた力を跳ね返す性質(弾性)だけでなく、加えられた力を吸収する性質(粘性)を併せもつから。
弾性や粘性の大きさはゴムの材質・種類などによって異なる。よく弾むゴムボールもあれば、あまり弾まないゴムボールもあるのと同じだ。
ここで今回のテーマである温度の差について紹介する、同じゴムであれば、温度が高いほうが、エネルギーのロスが少ない。細かい話になるが、温度が高くなると、分子同士が引き合う力が弱まって、ゴムは柔らかくなり、粘性の度合いが弱まってしまう。
たとえば「水あめを冷すと硬くなるので粘性が増すが、温めると液体に近くなり粘性が弱まる」と考えるとわかりやすいかもしれない。変形しやすいということは、それだけエネルギーのロスが少ないというわけだ。一見すると柔らかくなるから変形しやすくてそれが抵抗になると思いがちだが、変形しやすくて(バネのようにすぐに)戻りやすいというのは、それだけロスがないということになる。タイヤというのは、一見すると黒いゴムの塊のように見えて、最新技術の塊なのだ。