この記事をまとめると
■プロレーサーとして活躍している人たちには「異常」とも思える特殊能力が認められる
■現役時代の中谷明彦さんの動体視力は担当医師が誤計測を疑うレベルだった
■壁タッチやドリフト中のブロック走行、130R全開クリアなどプロも驚く離れ業を操るドライバーもいた
プロレーサーは常人には信じ難い特殊能力を備える
レーシングドライバー(レーサー)を生業としているような人は、やはり常人とは違った才能やら感性やらを備えているものだ。よく「レーサーになるにはどうすればいいか?」と聞かれるが、A級ライセンスを所得してレーシングカーを買い、レースに参加すれば、もうその人は「レーサー」といえる。
レースではカテゴリー別で107〜130%ルールというのが存在し、予選トップのタイムに対して107〜130%以内のタイム(130%の場合、トップが1分00秒のラップタイムだとしたら、最低でも1分18秒を記録する必要がある)を記録できないと決勝レースを走ることができない。
アマチュアの入門クラスでは決して高い壁とはならないが、それが常人かどうかの分かれ道の第一歩といえるだろう。レースに参加しているドライバーは、必ずトップの130%以内で走る実力を証明しているのだから、それだけでも一般の人からみたら凄いことに違いない。
そんなレーサーの世界でも、さらにプロレーサーとして活躍している人たちには「異常」とも思えるような特殊能力が度々認められる。
たとえば、僕自身で言えば動態視力が半端ない。もともと機械工学の大学を卒業し自動車専門誌「CARトップ誌」の編集部を経てプロレーサーに転向したが、視力自体は良くなかった。1989年のル・マン24時間レースのテストに参加し、視力の衰えを痛感して決勝までにメガネを作って渡欧して参戦したのだった。
だが、そんな僕でも動態視力は抜群の計測値だったのだ。動態視力を測る計測器のもっとも難易度が高いレベルから二段階目で識別できる動態視力だったのだ。計測担当の医師が「見える筈ない」と何度もテストを繰り返したが、結果は変わらなかった。聞けば、アフリカで遠くから猛獣を識別する能力が備わっている原住民と同レベルだと診断された。
思えば、富士スピードウェイの長い直線を時速300kmで走っている中で、ピットから提示される小さなサインボードの表記を正しく認識することに必死で務めていた。鈴鹿サーキットへの往復で、新幹線の車内から通過駅の看板を読み取るのを訓練としていたが、そうした努力が功を奏していたようだった。
動態視力が高まると、高速で走っていても路面が止まっているように見える。レーサーは常に向かう先の路面に視線をもっていくが、高速コーナーではかなり遠くの路面を視認する。そこに異物が落ちていても、それがボルトなのか小石なのかがわかる。避ける必要があれば瞬時に判断して軌道修正するのだ。
それをサーキット走行中は一瞬も気を抜くことなくレースの最後まで続けるのだから、我ながら凄い集中力を発揮していたのだなと思う。