ラジエターが不要なことがデザイン面でメリットになる場合も
●グリルレスもまた個性の見せ所
一方で、最近はグリルを小さくする流れも出てきました。ひとつはBEVを中心にした「グリルレス」の流行です。フロント部に大きな冷却装置を必要としないBEVでは従来タイプのグリルが不要であり、だったらそれを表現の特徴にしようという流れです。
具体的には、一連のテスラ車やボルボの「C40」、トヨタ「bZ4X」とスバル「ソルテラ」の兄弟車などがそれです。
また、レクサスの「RZ」では自慢のスピンドルグリルをボディと一体化させる試みが行われており、これもグリルを目立たせない手法のひとつと言えるでしょう。
いずれもボディ全体には特段「EVらしさ」が溢れているわけではなく、ある意味従来の「クルマらしさ」のままですが、そのうえでグリルレスとすることで、確かに新鮮でユニークな表情を獲得しています。
そしてもうひとつ、デザインのシンプル回帰があります。マツダが掲げる「引き算の美学」もそうですが、最近のホンダ車は、「フィット」「ヴェゼル」とグリルも含めて過剰な表現を回避。
その結果、新型「ステップワゴン」は、先のノア、ヴォクシーと対照的な存在として大きな話題になっています。
●顔はカーデザインのすべてではない
こうして二極化が進むグリルですが、デザイン的に見た場合、どちらかが優れていると言えるのでしょうか? もちろん、答えはノーです。
そもそも、グリルばかりに注目しがちな昨今の傾向に大きな問題があります。カーデザインにとって「顔」は重要な要素ですが、しかしあくまでも一部であって、本来はボディ全体で語られるべきなのは言うまでもありません。フロントは要素も多く差別化がしやすい部分ですが、そこばかりに集中するのはあまりに安易です。
そのうえでグリルに求められるのは、間違いなく普遍的な魅力と言えるでしょう。短期的な視点で次々に変えたり、一時の流行に乗るのではなく、長い期間に渡ってユーザーから愛されるデザインです。
大小を含めた表現の善し悪しは、その次に語られるべきことなのです。