海外の老舗自動車メーカーにも空出身は多い
ドイツでは、BMWが航空機エンジン製造で創業したことで知られる。そのエンジンの元となったのは、ダイムラーのエンジンだ。
ダイムラーの創業者であるゴットリープ・ダイムラーは、ガソリンエンジンを実用化したアウグスト・オットーとともに開発に携わった人である。当初のエンジンは、発電用など定置型の大きな寸法だったが、これを2輪車や4輪車にも使えるよう小型化したのが、ダイムラーである。
ガソリンエンジン自動車の発明者として特許を取得したカール・ベンツと違い、ダイムラーはクルマにこだわらず、船や航空機もエンジンで動かすことに関心があり、陸海空を制する意味で、スリー・ポインテッド・スターという、今日のメルセデス・ベンツ象徴の由来となっている。
英国のロールス・ロイスはガソリンエンジン車で創業したが、第一次世界大戦で航空機エンジンも開発・製造することになった。そもそも、運転が容易で滑らかに走るのが特徴だったロールス・ロイスのクルマは、やがて高級車メーカーとして名を馳せるが、同時に信頼性の高い航空機エンジンメーカーとしての知名度も高い。現在、クルマ部門はドイツのBMWグループに所属し、航空機などのエンジン部門は別会社となっている。
スウェーデンのサーブは、軍用航空機のために設立された。そして第二次世界大戦後にクルマの製造をはじめる。その点は、元航空機メーカーに由来を持つ日本の自動車メーカーに通じる。サーブは、戦後も民間用の小型飛行機を製造し、日本でも地域を結ぶコミューターとして使われてきた。
ジェットエンジンの前の時代、クルマと同じレシプロエンジンを航空機も使っていたころには、高度を飛ぶためターボチャージャーが不可欠であり、その技術を応用したターボエンジン車を1977年にサーブ99ターボとして発売している。BMWも、ターボ技術を活かした2002ターボを1973年に発売している。
一方、経営面でサーブは米国のゼネラル・モーターズ(GM)の傘下になるなどを経て、2017年にその名はクルマ社会から消えている。
イタリアのトリノに創業したフィアットも、のちに航空機用エンジンの開発に着手し、第一次世界大戦や第二次世界大戦の当時は、航空機の製造も行った。フィアットの1年前にフランスで創業したルノーも、第一次世界大戦前後には、航空機やそのエンジンの製造を行ったことがある。じつはポルシェも、一時、航空機用エンジンに参入しようとしたが、1991年に撤退している。