仮想空間でのプロモーションが効果的な時代が到来しつつある
こうして大きく変わっていく時代において、自動車メーカーのプロモーションも変化が求められるのは当然だ。
新車が出たらテレビCMと新聞広告を打っておけば注目を集められた時代はとうに終わっている。モータースポーツでの活躍でブランドへの憧れを集めることは今でも可能だが、それでリーチできる層が減っているのも事実だろう。
ダイバーシティという言葉を耳にする機会も増えているが、プロモーションにしても多様性を考慮する必要が高まっているのが2020年代だ。
そんな最新のプロモーションに使えるのが「メタバース」と呼ばれるサービスだ。何をもってメタバースと定義するのかは議論になるところで、VRゴーグルが必須という見方もあれば、スマートフォンで楽しめるオンラインゲームもメタバースとして捉えるべきという意見もある。
いずれにしても「メタバース」とは、リアルな3D仮想空間における体験を提供するサービス全般と理解できる。自動車メーカーとしては自社製品を楽しめる仮想空間を作り出し、そこにユーザーを誘導することでリアリティのあるプロモーションが可能となる……というのがPR部門の目論見だろう。
ただし、メタバースを利用したプロモーションにおいて、どこまでリアルを追求すべきかというのはプロモーションにおける大きな課題だ。一定以上のリアリティがなければ商品の魅力を訴求できないし、かといってリアルすぎる体験ができるメタバース(仮想空間)を生み出してしまうと「リアルワールドのクルマよりメタバースのほうが思い切って走れるので楽しい」といった感想をユーザーに与えてしまう可能性もある。
ただでさえコンプライアンス意識の高まりから、クルマで高速道路をぶっ飛ばすといった表現はNGとなっている昨今だ。ユーザーのマインドが「スポーツカーを思い切り楽しむのはメタバース、リアルではカーシェアリングを利用して大人しく乗っていよう」という風になってしまう可能性もある。せっかくのプロモーションなのに仮想空間のほうが楽しいと思われてしまっては、ブランディングにはなっても、売り上げに貢献しないプロモーションとなる可能性もある。
自動車メーカーがメタバースをプロモーションとして有効活用できるには、メタバースのリアリティが一定以下のレベルに収まっている必要があるだろう。プロモーションとして活用するには諸刃の剣の部分もあるのがメタバースといえそうだ。