今までにない操作感は安定感抜群で楽しい乗り物だ
そのポイントは、操舵軸だけでなく揺動軸も持っていることだ。揺動というのはリーン(傾く)ことだが、ストリーモは前半分がリーンすることで車体を安定させる設計となっている。
より具体的にいうと、フラットなステップ部分と後ろ2輪の部分は固定されていて、それより前のフレームに見える部分にふたつの軸が設けられている。ちなみに、駆動輪はフロントでインホイールモーターとなっている。
実際に乗ると、ハンドル部分が操舵方向とリーン方向に動くという乗り物になっている。こうして文字化するとハンドルの動きが大きく、違和感のある乗り味を想像するかもしれないが、実際には体重移動や視線移動によって自然に車体が動いてくよう仕上がっていた。
これを、人がもつ自然な反応を活かした『バランスアシストシステム』と呼んでいるが、まさにホンダで二輪開発をしてきたさまざまな知見が活かされているのだろう。
また、ハンドルがリーン方向にも動くというのは運転感覚としても新鮮で、構造的にも電動キックボードとはまったく違う乗り物であるというのが正直な感想だ。
その見た目から、ホンダ発のベンチャー起業が電動キックボードを開発した、という第一印象を受けるかもしれないが、これまでにない完全に新しいモビリティと捉えるべきだろう。
プロトタイプの試乗では、わざと15cm程度の段差を作ってそこを乗り越えるというシチュエーションもあった。今回は乗り手が段差に気付かず走っているケースを想定して、15km/hを維持したまま減速せずに段差に突入してみたが、バランスを崩すことなくクリアすることができた。小径タイヤの電動キックボードであれば間違いなく大転倒してしまうような段差だっただけに、その高い安定性には驚かされる。
こうした安定性には、前述したバランスアシストシステムも効いているが、空気入りタイヤを採用していることも効いているだろう。マイクロモビリティではゴムの塊のようなノーパンクタイヤを採用するケースもあるが、サスペンションを持たない車両であれば空気入りタイヤの変形によるショックの受け止めは、やはり安心感が大きいことが実感させられた。
もちろん3輪ゆえに6km/h以下の低速でもフラフラせずに走行できる。非常に小まわりも効くので歩行者と共存することも問題なさそうだ。ただし、後ろ2輪ゆえに内輪差がある点は気をつけないといけないかもしれない。
ストリーモには3段階のスピードリミッター的モードが用意され、モード1:6km/h、モード2:15km/h、モード3:25km/hとなっている。今回の試乗ではライディングを楽しめるコースにおいてモード3も試すことができた。
基本的には安定志向の強アンダーステアに仕上げられているが、モード3にするとヘアピンカーブの立ち上がりでアクセルを操作する右親指に力を入れると、フロントの駆動力によって旋回姿勢から加速姿勢に変化させる様が確認できた。
さらに、スキーを操っているようなイメージで膝を曲げるようにして積極的に体重移動も加えると、乗り物としての面白さが隠されていることにも気付かされた。クローズドコースでスポーツライディング的に操っても楽しいモビリティに仕上がっている。全体に曲がりたがるシャシーとなっている印象というわけだ。
なお、特定小型原付に関する法改正は施行されていないため、現時点でストリーモに公道で乗ろうとすると原付一種扱いとなる。運転免許は必要であるし、ヘルメットの装着義務もあり、もちろん車道しか走行できない。
そして、ストリーモの第一号となる「ジャパンローンチエディション」はオンラインでの300台限定販売となっている。価格は26万円と、通常の電動キックボードと比べるとけっして安くはないが、まったく新しいマイクロモビリティとしては破格のリーズナブルな価格と感じるがいかがだろうか。
なお、このストリーモの開発においてホンダ社内で事業化するのではなく、冒頭で記したイグニッションというスキームを使って起業した理由について、森さんは「マイクロモビリティの世界はスピード感が求められているので、意思決定がはやく、小回りの効く起業を選びました」と、決意を語ってくれた。
実際、ストリーモ・ジャパンローンチエディションの販売は2022年内を目指すということだが、今回試乗したプロトタイプから、まだまだ進化する可能性があるという。
現状でも非常に高い完成度を感じたが、さらに進化した量産モデルの仕上がりも楽しみだ。