この記事をまとめると
■2022年シーズンのF1で問題となっている「ポーポシング現象」を解説
■空力の問題で車体が上下に振動してしまう現象のこと
■「ポーポシング」を抑えたチームこそが今年のレースを制するとまで言われている
極限下で走るマシンが悩まされる空力の壁
2022シーズンのF1は、レギュレーションの変更によりこれまで絶対王者だったメルセデスがトップ争いに加われなくなり、レッドブルとフェラーリの2チームが、今シーズンの主役として激しいバトルを繰り広げている。
こうした勢力図の移行は、新しいレギュレーションの影響が大きく、とくに空力面で、床下で稼ぐダウンフォース、グラウンドエフェクトの重要性が増したことで、各チームとも課題を抱えることになった。
それがシーズン開幕前のバルセロナテストから話題になっている「ポーポシング現象」だ。
ポーポシングとは水面を跳ねながら泳ぐイルカのように、車体の縦揺れが連続する様子のこと。
語源はポーパス「Porpoise」という小型のクジラ類。和名では「ネズミイルカ」と呼ばれ、そのネズミイルカが泳ぐ様子が由来となっている。
もともとは、航空機や船舶の用語だったが、1970年代にF1でロータスチームがウイングカーを導入したことから、グランドエフェクト車特有のマシンの縦揺れを表す用語として使われるようになった。
では、どうしてグランドエフェクトカーだとポーポシングが問題になるのか?
グランドエフェクトは、ボディの前面から車体の下に空気を取り込み、ボディ中央と路面とのクリアランスを狭め、ボディ後端で流れてきた空気を拡散させることで、車体中央部の空気の流速を高め、ボディ下面に負圧=ダウンフォースを発生させる(「流体の流速が速くなると圧力が低くなる」=「ベルヌーイの定理」)仕組み。
これが上手く働けば働くほど、ダウンフォースが強くなって、車体が沈み込むわけだが、あまり車体が沈み込むと、空気の入口が塞がれることになり、フロアへ空気が流れなくなってしまう。
するとダウンフォースが失われ、車体は浮き上がり、車体が浮き上がると再び空気が流れてダウンフォースがアップ!
これを繰り返すことで、ポーポシング現象が発生するというわけだ……。
ポーポシングの問題は、直線だけなら、車高を上げて、サスペンションを固めれば解決するが、そうすると今度はコーナリングやブレーキングの際に、欲しいダウンフォースが得られなくなる。
かつてのアクティブサスのように、車体と路面のクリアランスを一定に保てれば、ポーポシングは防げるが、いまのレギュレーションではアクティブサスは使えない。
それに代わる何らかの方法で、車高があるレベルから下がらないように工夫するか、アンダーパネルの剛性を高めるか、空力バランスを見直すか?
その最適解をライバルよりも早く見つけて、「イルカ走り」とおさらばすることが、2022年以降のF1で、トップチームなるための大きなカギを握っている。