OEMが多いのには切実な事情がある
とくに今の軽自動車は、昔に比べると安全面を含めて各種の装備が充実しているが、価格の上乗せは小さい。たとえば初代アルトは、1979年に47万円で発売された。当時の47万円を大卒初任給を基準に2022年の価値に換算すると、約90万円になる。現行アルトでもっとも安いAが94万3800円だから、アルトを買う時の経済的な負担は、昔も今もほぼ同じだ。
ところが装備は大幅に異なる。初代アルトには、4輪ABS、横滑り防止装置、エアバッグ、パワーステアリング、エアコン、アイドリングストップなどは一切装着されず、左側のドアの鍵穴まで省いていた。
それが現行アルトAでは、前述の装備に加えて、衝突被害軽減ブレーキやサイド&カーテンエアバッグまで標準装着される。このような超絶的な買い得車は、エンジンやプラットフォームを共通化した類似車種を含めて、大量に生産しないと成り立たない。
軽トラックも価格が安く、衝突被害軽減ブレーキなどを省いたキャリイKCは、5速MT仕様が75万2400円だ。ここまで価格が下がると、OEM車として流通させ、売れ行きを伸ばすことが不可欠になる。そこで日産と三菱は、軽乗用車を共同開発しながら、軽商用車はOEMを導入しているわけだ。
それならなぜ、OEMを導入しても軽自動車を扱うのか。自社で企画・開発・生産をしないなら、OEM車を販売しなくても良いではないか。
そこには販売面の事情がある。かつてのマツダやスバルは、軽自動車を自社で生産しており、ユーザーとの付き合いもある。販売まで含めて軽自動車から撤退すると、点検、車検、保険、修理といったアフターサービスの仕事まで失う。
またマツダが軽自動車から撤退して、その顧客がスズキから購入すると、同じ世帯や法人が併用する小型車まで、マツダ2からスイフトに切り替わる心配が生じる。販売会社は、自社の顧客を失ったり、他社の社員と接触することは避けたい。そこで、いわゆる囲い込みの手段として、OEM車を使う。軽自動車にOEMが多い背景には、切実な事情があるわけだ。