ドライバー曰く「フィーリングはガソリン機関と識別がつかない」
基本的には、カーボンニュートラルの選択肢を増やしたいという発想が原点にあり、クルマを作るのはエンジニア、すなわち開発者の育成にも力を注ぎたい、という意向が強く働いたことによるという。このため、過去のモータースポーツ参画では、外部企業(WRC=プロドライブ社、スーパーGT=STI社など)との連携で体制を作ってきたが、今回はすべて社内の人材、体制のみで行っているという。ちなみに、カーボンニュートラル燃料車のプロジェクトに関わる人員は、優に100人を超えているという。
レースは、やってきたことが即座に結果として表れ、レースとレースの間隔も短いことから、対応するエンジニアには、短時間での対策、状況に対する即断即決の判断が求められることになる。スバルでは、我々は量産車を生産するメーカーであり、よりよい製品をユーザーに提供するには、優秀な人材が必要不可欠だという判断が働き、その人材育成には、モータースポーツがまたとない条件を備えていると見ているのだ。
さて、使用する燃料は、二酸化炭素と水素、非食用バイオマス由来の成分を合成し、ガソリンのJIS規格に合致するよう調節されたものが使われているという。なお、燃料自体はカーボンニュートラルと見なせる状態だが、燃料の製造、輸送に関しては二酸化炭素排出の可能性も含まれるため、厳密に言えば完全なカーボンニュートラル状態ではない、と付け加えてくれた。
燃料に含まれる酸素含有量がガソリンより若干少ないため、厳密に言えば出力レベルは低くなるが、こうしたあたりも留意してレース仕様車は設定されてるという。ガソリンと比べた場合のドライバビリティの違いが気になり、ドライバーにフィーリングを求めてみたが、ガソリン機関と識別がつかないレベルで仕上がっている、という答えが返ってきた。
ちなみに、トヨタは水素燃料車のカローラほかに、カーボンニュートラル燃料の86も参戦させているが、BRZもこれと同じ燃料を使っているという。ただし、トヨタのエンジンは86用でなく、直列3気筒ターボのG16E型を1.4リッターに縮小したものを使っている。
一方、24時間レースのスタート直前に開かれたプレスコンファレンスで、2台参戦する新型フェアレディZのうちの1台が、カーボンニュートラル燃料車であることを日産が表明した。もう1台のガソリン燃料車と比べ、動力性能面で遜色がなかったことは、スタート直後から車両の走行スピードで確認することができた。
そしてもう1台、バイオディーゼル燃料で参戦してきたマツダ2も見逃せない存在だった。こちらはガソリン機関がベースではなく、ディーゼル機関をベースとするカーボンニュートラル燃料が特徴の車両で、燃料の原料はミドリムシ、すなわちワカメやコンブと同じ「藻」の仲間で、化石燃料(軽油)でないことから二酸化炭素の発生がない。
ちなみにディーゼル機関は、もともと落花生油を使う機関として開発され、そのルーツはカーボンニュートラルだった。それが石油燃料の発見、発達により、ディーゼル機関には軽油が用いられるようになったものである。
ミドリムシ燃料は、カーボンニュートラルを実現するディーゼル機関用の燃料として研究・開発が進められているが、現状、1リッターあたり1万円ほどするらしく、コストダウンが急務、大きな課題となっている。ちなみに、マツダ2のレース燃費は、富士スピードウェイ1周でほぼ1リッター前後らしく、まともなペースで24時間を完走すれば、燃料代だけで数百万円が消える勘定になる。
水素も含めたカーボンニュートラル燃料の実現化にメドが立てば、EVに頼らぬ二酸化炭素の排出削減が可能となる。とくに燃料を補給することで走ることができる内燃機関の特徴は、電池=充電に依存するEVにはないメリットと言うことができ、これの実用化には大きな期待が寄せられている。