クルマとして異様なディテールを持つ稀代のスーパーカー
デザインはもちろん、ランボルギーニのミウラやカウンタックでお馴染みのマルッチェロ・ガンディーニ。これだけのチームが組織されれば、後発メーカーとしても十分なインパクトを持つスーパースポーツカーを誕生させることができる。そして、実際に完成したファーストモデルのチゼタ・モロダーV16Tは、間違いなく斬新で刺激的なデザインとメカニズムを持つモデルに仕上げられていたのである。
まずはそのデザインを改めて鑑賞することにしよう。強いウエッジシェイプを持つそのスタイルは、一説にはランボルギーニ・ディアブロの後継車として提案されていたものとも噂されるが、たしかにその空気の壁を切り裂くかの如きシルエットや、リヤホイールアーチなどのディテールは、ガンディーニならではのフィニッシュである。
フロントのリトラクタブルライトは上下2段式。リヤフェンダー上にはエンジンルームに効率的にエアを導入するためのスリットが存在するが、それが水平方向に並ぶのはファーストモデルのみのデザインとなっている。
リヤミッドに搭載されるエンジンは、T(=Transverse)の文字から想像できるように、横置きされる6リッターのV型16気筒DOHC。これは、ランボルギーニ・ウラッコP300用のV型8気筒エンジンを2基接続したものと噂され、組み合わされる5速MTはその中央部分から縦置き搭載される仕組みだ。つまり、それでパワートレインは「T」の文字が構成されるということになる。もちろん、シンプルにエンジンの搭載方法がトランスバース(横置き)だと考えることも可能だが。注目の最高出力は、このプロトタイプでは560馬力を主張していたが、後の生産型では520馬力にデチューンされた。
チゼタ・モロダーV16Tは、1989年のジュネーブ・ショーでワールドプレミアされ大きな話題となるが、デリバリーの遅れからチゼタ・モロダー社の経営は徐々に厳しくなり始める。結局、モロダー氏はこのプロジェクトから撤退し、モロダーの名前が消えたチゼタ社は、苦難の中8台のプロダクションモデルを製作した後に倒産。ザンポッリはここから8年という歳月を経て、再びカリフォルニアへと戻り、ここでチゼタ・アウトモビリUSA社を設立。V16Tの生産を再開するものの、ここでも商標権違反や輸入関税法違反など、さまざまなトラブルに翻弄されてしまう。
結果的に、これまでチゼタが生産したV16Tは15台とされているが、その中にはオープン仕様も存在する。チゼタ復活の日は訪れるのか。できればニューモデルの誕生とともに、その日を待ちたいというのが正直な気持ちだ。